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第8回 バック・ヤード・パーティー (その2)

パーティー当日、会場はワーナー・ブラザースのスタジオからすぐ近くにある閑静な住宅街にあり、さすが業界人と言う感じの一軒家で、とてもアーティスティックな創りだ。パーティーは午後3時半からだが、ジェームスは既に来ていて、バック・ヤードでセッティングしている。案の定、ジェームスはアロハ・シャツを着ている。やはり、LAの午後の日差しが黒装束にはキツイので、涼しい服を着て来たのだ。俺は予定どうり、ミーハーにブルース・ブラザースを演出して行った。更に15センチは伸びたと思うあごひげをドライヤーでブローして20センチまで伸ばして仙人のよう (ハリウッド映画/空手キッズのMrミヤギ風) にし、黒シャツについているワンポイントの白い龍の刺繍で「東洋人」をアピールした。もうコスプレに近い状態で完璧っと思ったが、やっぱりメチャクチャ暑いっ。白い龍の入った黒シャツは見てくれは良いが、安物のポリエスター素材で汗も吸わないし、風通しも悪い。

LAの夏時間では午後4時、5時ぐらいになっても日差しは結構強いので、楽器やアンプなどの日焼けを防ぐために仮設テントを張ったりしていた。俺はもう演奏する前から汗びっしょりでせっかくバリッと着こなした衣装もヨレヨレになってしまった。
俺は「テント張るんなら最初から言ってくれっ!」と空に向かって言った。

そうこうしているといきなり、トムが登場した。トムは我々がデュオになる前に一緒に演っていたドラマーだ。

俺:「あれっ?今日はデュオじゃないの?」
ジェームス:「あっ!言い忘れたけど今日は4ピースだ。」
俺:「ゲッ!ハメたなっ。 フツウ、そんなこと忘れるかいっ!?」

本来、トミー・ジョンソンやアーサー・ブラインド・ブレイク等、1920年代後半から30年代にかけての戦前フォーク・ブルーズをアクースティック・デュオで演るのが我々の最大のセールス・ポイントであり、主旨だが、たまにはバンドでガシャガシャやりたいと言うのがジェームスの言い分だ。トムはサッサとドラムをセッティングし始めた。

トムはもともとジャズ・ドラマーで、ブラシにはチョッと「ウルサイ」 (超専門的の意) 、レイドバック型プレイヤーだ。以前、一緒に演っていた時は、電話帳を担当していた。電話帳?いや単にブラシで電話帳をたたいていただけだったが、彼の巧妙なブラシ・テクニックは電話帳だけでも十分カッコ良かった。しかし、今日はドンチャン騒ぎと言う事で、ドラム・セットを持ち込んできたのだが、ナ、ナント、1960年式のグレッチ3点セットを持って来た。
ス、スッゲーっ!!!

この年代のグレッチは音質に「ウルサイ」シャッフル、スウィング系ドラマーや、「もっとウルサイ」一部のノーがき評論家などから絶賛されている希少モデルで、E-BAYなどのオークションでもカナリ高額がついている。レコーディングなどの現場でハリウッド界隈のプロ・ドラム・ショップからレンタルすると、俺がLAでペンキ屋を1週間やったのと同じくらいの金額をチャージする程だ。
しかも、彼のはピッカピッかにメンテナンスされていて新品同様。何処かの楽器買い付け屋さんがみたら即、前金を渡してきそうなクオリティーだ。

ドラムに限らず何の楽器でも手入れが行き届いていると気持ちいいし、その持ち主の気合みたいなものが感じられてスゴーく良い。ペンキ屋だってハケがきれいな奴はいい仕事をする。俺もボチボチ自分の機材をセッティングし始めた。4ピースバンドと言う事でジェームスもエレクトリックだ。

ジェームス:「今日はドラムがあるから、アコースティック・セットは無しだ。」
俺:「じゃぁ ナニ演ろうっか?」
ジェームス:「シカゴ・サウンドだな」
俺:「OK、じゃぁアンプを持ってくるよ」

シカゴ・サウンドとは、1950年代から60年代ごろのマディー・ウォーターズのフェイバリット・ナムバーや往年のリトル・ウォルター、ジュニア・ウェルスと言った当時のブルーズ・スターのヒット曲のことで、そのほうが主催者好みだそうだ。俺はたまたま昨夜、別のブルースGIGで使ったアンプが車に積みっぱなしになっていたので、それを使用する事にした。1957年式のフェンダー・ハーバードだ。俺はヴィンテージ機材発掘にさほど熱心ではないが、旅先で偶々入った小さな質屋で見つけて衝動買いした。

俺のアンプ選びは実に簡単だ。ただ好きなマイクをアンプにぶち込んで好きな音が出ればOK。製品のデータや稀少価値などは全く参考にしない。いいアンプはぶち込んだ瞬間からいい音がするような気がするし、どんなに希少価値があるアンプでも、ダメな時は全然ダメだ。特にヴィンテージ機材については各界のウルサ方 (ガタ) がいろんな意見を持っていて討論されているが、実際、吹き手自身の出してる音が最も重要で、それに対してのアンプリファイドという考えから、「吹き手」、「マイク」、「アンプ」と、それぞれの相性が大事と俺は確信している。
結局、自分で音出して気に入ればそれでいいのだ。過去にもコレだっ!と思った組み合わせはナンとおりもあったが、その探求の旅は一生終わる事が無いだろう。

まっ!?とりあえず今日はフェンダー・ハーバード、マイクはアスタティックJT-30で演ることにした。ヴォーカル・マイクは1950年代式のエレクトロ・ヴォイスだ。

メンバー各自のセットアップが終わり、後はベース・プレイヤーを待つばかり。キッチンの方では徐々に料理のダンドリも進み、いいニオイがしてきた。パティオではバーべキュウの煙でモクモクだ。

しかし本番15分前になってもベース・プレイヤーが現れない。
アット・ホームなプライベート・パーティーとはいえ、俺はタイム・スケジュールや演奏内容はキッチリやりたい。どこかで規律を作っておかないと、す〜ぐにヘロヘロ状態になって、その場は楽しくても、最終的にギャラの支払いを値切られたり、いい加減にされてしまう原因になるので、せめてこのようなパーティーでは「あなた達のために演奏しています。楽しんで下さい」と言ったある種の奉仕的な姿勢が重要だ。そんなに神経質になる必要も無いのだが、クチコミで仕事を取っている俺達にとって、「評判だけが頼り」なのだ。ある程度のクオリティーは提供したいが、ベース・プレイヤーはまだ来ていない。もう開始時間だ。

俺:「チンガォ」 (スペイン語スラングで畜生の意)
ジェームス:「演 (ヤ) ろうぜ。ボ・ディドリーのバンドじゃベースはいなかったぞ。」
俺:「じゃぁ、本当 (?) のダウン・ホーム・ブルーズだな。」
トム:「ノー・プロブレムっ。 (問題なし) 」

結局、3ピース (エレクトリック・ギター、アンプリファイド・ハーモニカ、ドラム) で
演奏し始めた。来客も徐々に増えてきている。



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