第1回

第2回

第3回

第4回

第5回

第6回

第7回

第8回

第9回

第10回

第11回


第3回 マリアッチアンサンブルクラス

先日、イーストLA (ヒスパニック系移住区) の楽器屋で見つけた広告で「マリアッチアンサンブルクラス」と言うのがあった。3ヶ月位前からメキシカンギターの「ハラーナ」をシコシコ練習している俺にとって「マタとないチャンス」と思い、早速参加することにした。
場所はその楽器屋からわりと近くにある「カルチュアルセンター Cultural Center for Arrts and Education」だ。手持ちのマリアッチCDをカーステレオでガンガン聞きながら気持を盛り上げて行ったが、チョッと力みすぎて早く着いてしまった。

会場となる「カルチュアルセンター」はパームツリーに囲まれた美しい公園の中にあるスパニッシュ建造物で大きな池に類設している。恐らく地元のヒスパニック非営利団体か何かが支援しいるのだろう。メキシコ文化を後世に伝えるべく様々なプログラム (メキシカン芸術、トラディショナルダンス、ミュージック等) が用意されている。

中庭に入っていくとクラス待ちの生徒さんたちがそこらじゅうで練習している。ギタロン (6弦) ベースやギターラ、バイオリン、トランペットなど興味のあるマリアッチ楽器ばかりだが、皆中学生位の子供だ。アダルトスクールだと勝手に思い込んでいたのでチョッと面食らったが、かなり高度なテクニックを練習していたのでビックリした。

その中にトリオ(3人組)で演ってる奴らがいたので声をかけてみた。
最初は「なんだこの変な東洋人は?」的な疑いの目で見ていて、彼らの保護者も遠マキに俺を監視しているのが分かったが、自分の楽器「ハラーナ」を見せてやったら興味を示してきたので、「メキシコのヴェラクルース地方のソンハローチョと言う音楽の花形リズムギターだ」と説明した。
ヴェラクルース地方とはメキシコ湾岸のヴェラクルース港、カテマコ湖周辺の熱帯地域で、かつてのスペイン植民地であり、その入り口であったヴェラクルースはメキシコの中で最もスペイン化された歴史的な町だ。その影響は音楽に一番顕著に現れており、楽器、演奏方法、旋律、歌詞、歌い方などは16世紀から18世紀にかけての植民地時代に取り入れられた要素を基盤にしている。
俺の「ハラーナ」は17世紀始めごろスペインのバロックギターをもとにして作られたものだと聞いている。従来のギターより小ぶりで5コースに8弦張ってあるミョウなギターに彼らの質問攻めにあったが、以外にも「俺が入れ込んでいるハラーナ」の存在さえ知らなかったのでハローチョミュージックが、このLAでいかに少数派かと言う事を知った。

俺も彼らの楽器についていろいろ質問したが、とりあえず、「ノーガキより音出し」と思い、彼らの知ってそうなメキシカンソングをスペイン語ヴォーカル入りで弾きはじめた。
歌いだすと同時に思惑どうり「その曲しってるゼ!」と3人とも俺の演奏についてきた。個々に楽器を演奏しつつ、合唱した。「その曲」とは、最近俺が一番練習していた「Sabor a mi」だ。
本来、「ハーモニカホルダーを使ってイントロとソロをやりつつ、歌とハラーナを弾く」だったが、ただの「つかみ」と思っていたので1番だけ歌って終わった。
お互いに笑いながら握手をした。彼らの保護者も遠マキにホッとした感じで苦笑している。

こうなると大人も子供も関係なく、いちミュージシャンとして対等なディスカッションとなる。俺が日本で育った日本人である事、メキシカンミュージックに夢中になっている事、今日初めてクラスを受講する事、「ハラーナ」がうまくなりたい事、など英語で話した。彼らは英語も話すが、仲間内ではスペイン語だ。こんな時、ツクズク「俺もスペイン語で話したい。」と思う。
「他にどんな曲知ってる?」との問いに、歌詞に自信がなかったが、コード進行をロスロボスバージョンで知っていた「La Feria De Las Flores」を弾きはじめた。この曲はマリアッチでも定番中の定番で、皆、当然知っていたのでチャンとした楽曲になった。近くでトランペットを練習していた奴 (子供) もいきなり歌いながら歩って来たりして最後にはハーモニーまでつけて歌った。たった2曲JAMっただけなのに意気投合してお互いの信頼を得られる音楽は素晴らしいと思った。

ソウコウしているうちにクラス開始時間になったので、彼らと彼らの保護者の手招きで教室に入ることができた。ラッキー!
教室に入ると、さっきまで外で練習していた生徒さんたちのほとんどがそれぞれのセクション別に座っている。トランペットが10名、ヴァイオリン6名、ギタロン3名、ギターラ4名で、さすがにマリアッチの花形楽器、トランペットに人気があるようだ。生徒の中に大人は俺一人だったので、なんだか気恥ずかしくなり教室の隅で彼らの保護者と一緒にまずは見学することにした。
先生は古くから名のあるプロマリアッチバンドのヴァイオリンプレイヤーで週4回ほど、ダウンタウン近くの「ラフォンダ」と言う高級レストランで演奏しているそうだ。「ラフォンダ」といえば、世界中から観光客がマリアッチディナーを楽しみに来るその手の店の老舗で、俺も過去に何度か視察に行ったことがある。ってことはこの先生はエリート中のエリートだ。当然スペイン語での授業。
ポツンと孤立している俺に、先生は「ギターを出してこっちに座れ」と手振りで招いてくれたので、さっきJAMった奴らの間に恐縮しつつ座った。バンド全員が座っている向かいの壁が全部鏡ばりになっているので、そこに写った中学生の中に、長髪でヒゲズラの大人の俺が混じっているのがミョウだった。
そんな事はぜんぜん関係なく、先生が指揮を始めると、ギタロンのピックアップでヴァイオリン、トランッペットの順で絡み、ギターラが入って曲が進行する。俺はギターラのパートをハラーナでやることになった。
楽譜を見るとかなり細かく指定されたクラッシックの譜面だったので、コード進行だけ追って、ストロークのタイミングはとなりの中学生の肩の動きを横目で読んでなんとか合わせた。

俺はガキの頃から学校教育に不満を感じていた (ただの悪ガキだった) ので、正式な音楽教育を受けていない。小学生の時の合唱では「口パクでやりなさい」と音楽教師に言われたし、中学生の時は吹奏楽部に入りたかったが「素行が悪い」との理由で入部できなかった。でも音楽が好きだったので放課後、学校にあるほうきとかでギターを弾くマネなどしていた。その後ギターを買い、独学で覚えたので、「ショケン」は苦手なのだ。
ふと自分の中学生時代にフラッシュバックしたような気になったが、当時の俺より、ここにいる中学生は数倍高度なことをやっている。すでに俺はアテぶりに近い状況になっていた。2,3度、課題曲を全員であわせた後、それぞれのパートを楽器別グループで集中練習する。先生は各グループを回って細かい所を指導する。当然、俺はギターラのパートを練習した。わからない所は「先輩の中学生」に聞いたりした。

一生懸命になっていると「本日はこれまで。」と先生はサッサと授業終了を告げた。たった1時間の授業だったが、俺にとって内容の濃い、充実した時間だった。せめて気持だけでも伝えようと帰り際の先生に「あなたのクラスに参加できて光栄です。有り難うございました。」と英語で言ったあと、「ムーチョ グラシアス」とスペイン語で重ねて礼を言った。「来週も来るかね?」との問いに「考えておきます」と言ってニヤニヤしながら握手をした。充実した授業だったとはいえ、やはり俺はアダルトクラスで学びたい。しかし、そのアダルトクラスは来年の1月まで無いそうだ。こんなことは最初に電話で問い合わせれば分かる事なのに数少ないマリアッチ情報に飢えていた俺はとびついてしまったと改めて反省した。

とりあえずその場を去り、ハリウッドに向かった。今夜はジェ−ムスと「キャンターズ」でブルースデュオLIVEだ。



[ Top ] [ ディスク・ガイド ] [ メキシカン・ミュージック] [ Now On Sale ! ] [ 掲示板 ]

[ T's music co Promo Film ] [ MySpace ] [ BlueSlim ]

Copyright (C) by Tetsuya Nakamura and Hiroshi Takahashi, all rights reserved.