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第10回 バックヤード・パーティー  (その4)

結構、長めのファースト・セットを終え、BBQをつまみ食いしていると、突然、スリック・バック (グリースで固めたオールバックの髪型) のイカツイ奴が思いっきりニコニコして握手を求めてきた。

彼もハーモニカを吹くそうで、様相からチャーリー・マッセル・ホワイトにかなり影響を受けているようだと察していると、案の定、我々のセカンド・セットにシット・イン (Jam) したいらしい。オレは気前良く「いいよ」と言ったら、すかさず自分の機材を持ち込んで来て、セッティングし始めた。最初からやる気満々だ。とりあえず、好き勝手に演ってもらっているうちに、オレはコスチュマーたちに営業活動だっ!「努力なくして、勝利なし!」・・・、っと思ったが、とりあえずビールでも飲んで、汗が引くのを待とう。

パティオのテーブルで涼んでいると、ブロンド・ヘアーの熟女が「ココ、空いてるかしら?」と相席を求めて来たので、ナニゲに、「どうぞ」と言った。彼女 はいきなり持ってきたワイン・ボトルをドーンとテーブルの上に置いて・・

彼女:「味見するう?」とネットリとしたトーンで聞いてきたので、

オレ:「モッ、モチロン、モチロンッ」とギコチナク答えた。グラスにワインをソソイデもらいながら・・

彼女:「あんたたちの音、イカスわよっ」
オレ:「ドッ、ドーモ」
彼女:「ブルーズって私のお気に入り音楽なのよ。」
オレ:「はっ、サヨーで。楽しんでいただけて光栄です。」
彼女:「私、ロビン、ヨロシクね。」
オレ:「おれ、テツヤ。言いずらかったらテッドでもいいよ」

アメリカ人にとって「テツヤ」と言う発音は非常に難しいので、時として「テッド/Ted」と名乗っている。日本の文部省が定めた「ローマ字」はアメリカでは通用しない。現にオレの名前「Tetsuya」をアメリカ人が発音すると「テツ−イ」とか言っている。
チャンと「テツヤ」と発音してもらうには「Tet-seeya」が最も近いスペルではないだろうか?

まっ!?そんなことより、「サルー、カンパーイ!」ってなわけで、彼女についでもらったワインを飲みながら、しばし、ブルース談議やワインの話に花を咲かしていると、突然、目に来るような爆音が二人の会話をさえぎった。
「スリック・バック」のハーモニカ・プレイヤーが、演奏し始めたのだ。あまりにも場違いな大音量に他の来客たちも唖然としている。彼は初期のシュアー545 (マイク) をロケット・リヴァーブ/アンぺグ (12インチ・スピーカー×2を搭載した大出力ギターアンプ) に直結し、全開で吹いている。それに挑発されてか、別のギター・プレイヤーもヴォリュームを上げて対抗してきたので、バンドと呼ぶにはほど遠い無意味なバトルと化した。

一緒に演っているトムもジェームスもシカメッ面で、オレの方を見て首を横に振っている。オレは「OK,OK,この曲が終わったら、戻るから」と目で合図していると、場を察したのか主催者の女性が突然ヴォーカルマイクを取り、

「皆さーん、今からオープン・マイク (Jam / 素人演芸大会) よーっ!やりたい人はジャンジャンやっちゃってえー!」

とアナウンスした。
もうその後のステージは、「昔取ったキネズカミュージシャン」や近所のガキ、等 (ら) でごった返しになったのは言うまでもない。トムもジェームスも飽きれてオレのテーブルに来て酒盛りだ。もう音楽がどうの?と言うより大音量ドンチャン騒ぎで時間が過ぎて行った。これはこれで楽しいのだが、本来、「業界人に営業」が我々の目的であり、趣旨であるわけで、一緒になってガシャガシャ演 (や) ってちゃ今日ここに来た意味が無い。

ジェームス:「次のセットはキメなきゃな。」
オレ:「じゃあ いつもの選曲で行こうっか?」
ジェームス:「Down By The Riversideからだな」
オレ:「OKッ!」

オレは軽く返事をし、更にロビンが持ってきたワインを飲んで、奴らのJam?が終わるのを待った。
とりあえず、もうチョッとだけロビンにチョッカイ出して (ナンパ?) 時間つぶしだ。

ふと彼女の方を振り返ると既にワインボトルは半分以上、無くなっていた。彼女自身もいい調子だっ!「しめしめっ!」

改めて聞くことも無いのだが・・・

オレ:「調子どう?ベイビー!?」

彼女はオレにモタレかかりつつ、

ロビン:「モーいい感じ!」

オレ:「結構いけるよねーこのワイン」

ロビン:「ここにくる途中に偶然見つけたのよー」

「で、このワインの名前だけどさー “ロッキン・ロビン”って言うのよ。」

「私も昔はそう呼ばれてたのよオー」

どうやら、この人、昔は“イケイケ (死語?) ・パーティー・ガール”だったんだなー。

それにしても、このワインのラベルのデザイン、結構イケてる。
イラストで、“ROCK IN' ROBIN”と書かれたタイトルの下に50年代調のサドル・シューズを履いた小鳥のカップルが、ジルバを踊っている。背景には、黒い小鳥たちのドゥー・ワップ・グループや、ワーリッツアーのジュウク・ボックスなど、元来、リーゼント・バンド出身のオレには超うれしーデザインだ。もう雰囲気バッチリっ!

ナンカ、懐かしくなって、鼻歌まじりに・・・

「テュリリリリ、、テュリ、テュリリリ・・」

指をスナップしながら、“ボビー・デイ (だったかな?) ”の“ロッキン・ロビン”を歌い出した。
ロビンも「それあたしのテーマ・ソングよっ!」とばかり、テーブルをガンガンたたいてノッテきたので、オレは振りも付けて、本格的に歌い出した。
セカンド・コーラスからは、彼女自身にリードをとってもらい、オレは「ハッ ウウーウン」とバック・グラウンドのアイの手 (コール&リスポンス?) を歌ったりした。ステージではまだ、“ガシャガシャ・ノイズ”状態でうるさいが、もう関係なく、二人の世界に浸 (ひた) っていた。「しめしめ」



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