第1回

第2回

第3回

第4回

第5回

第6回

第7回

第8回

第9回

第10回

第11回


第6回 黒人街のコメディーショー

「GIGの当日キャンセル」、「今日犯した失態」で息どうりを感じていた俺はウサを晴らすべく、「Jam」はないかと、日本人ドラマーのタカに電話した。タカはLA界隈のブルースクラブで活動している職業ドラマーで、時には月に25本も (殆ど毎日) 演ってるそのシーンの情報通だ。LAで日曜日の深夜までライブバンドを出演させるクラブは極端に減っているので、「最後の頼みの綱」とばかり応答を待った。すると休憩中のタカにマンマとつながった。ラッキー!電話口から店のざわめきが聞こえる。

俺:「どこで演奏(ヤ)ってんの?」
タカ:「ベイビー・アンド・リッキーズ・インです。」
俺:「どんなバンド?」
タカ:「黒人ファンクバンドです。」
俺:「編制は?」
タカ:「3ピース (ドラム、ベース、ギター) です。」

普段はキーボードの奴もいるが、ギャラが折り合わないので、来ていないと言う。やはり、客の少ない日曜日の深夜まで演奏 (ヤル) バンドのギャラはキビシイのだ。

俺:「チョッとシットイン (Jam) させてくれないかな?」
タカ:「いいですよ。あと2セットあります。」
俺:「じゃあ 今から行くから」

ラッキー!
俺は電話を切り、「ベイビーアンドリッキーズイン」に直行した。
この店は「コージーズ」から車で30分位で行けるサウスセントラル (黒人移住区) にあるブルースクラブの老舗で、俺もローカル・ブルース・バンドの一員として何度か出演したことがあるわりと好きな店だ。車を停め、店まで歩いて行くと笑い声が聞こえる。「オッ盛りあがってるジャン!」と思い、店に入るといつもと様子が違う。どうやら「コメディアン・ナイト」のようだ。
コメディー?・・・といってもちゃんとショウケースになっていて、司会者がコメディアンを紹介すると、ホスト・バンドが演奏してコメディアンをステージに呼び込み、その漫談が終わるとバンド演奏で退場する。また司会者が登場し、次のコメディアンを紹介するといった黒人文化の伝統的な「コメディーショウ」だ。タカはそのホストバンドのドラムを担当している。俺はビールでも飲みながらしばらくカウンター席で様子を見ることにした。

客はまばらだが、一般的にスローな日曜日のこの時間帯にしては入っている。ドレスアップした中年カップルや、地元のコメディーファンが白い歯むき出しで大笑いしている。客も出演者も皆、黒人だ。お笑いの内容もレイシズムをてらったジョークやシモネタで黒人にしか通用しないモノばかりだ。近年「BET (ブラック・エンターテイメント・テレビ)」のコメディープログラムの影響で、こういったコメディーショウは一般的に再度人気が出で来たように思うが、テレビで見るより、その内容はかなり強烈でヒワイなモノだ。しかし、ライブということで、なにか熱いモノが感じられる。これはバンドと全く同じだ。

おもしろいなと思ったのはそれぞれのコメディアンの様相が漫談内容と一致することだった。遊び人風のコメディアンはダンスクラブや歓楽街でのジョーク、太った女性コメディアンはもっぱら食い物関係。いかにも素行不良っぽい奴はやはり刑務所ネタだった。どのタイプのコメディアンでも「キツイ、シモネタ」は必然だ。
その合間に演奏するホストバンドの音は「キツイ、シモネタ」の勢い同様にファンキーだ。特にベースプレイヤーのグルーブ感はネチネチとスケベーなタイミングでノッている。俺はこういった「終わりの無いピストン運動」のようなベースが大好きだ。タカのドラムもハマッている。

俺は2本目のビールを飲み干した頃、ギターの奴の手招きで、ステージに上がった。
このバンドに対して既に、頭の中で「傾向と対策」は出来ていた。こうゆう時はコメディアンと同様に音の「出のツカミ」はカナリ重要だ。まず自分自身の存在感で客を威圧出来る様、努力した。「終わりの無いピストン運動」にノッて、ノッケから、素早いトレモロで切り出し、簡単なリフを繰り返してドラムブレイクで終わり、マイクを司会者に戻した。通常のライブでは、こんなジングル的構成をあまり考えないが、自分もコメディーショウの一部だと思うと、何とかメリハリをつけて、ショウ全体のレベルを上げたいと思うのだ。

さらに何人かのコメディアンの漫談が終わり、今夜のショウでは一番でかい?!女コメディアンの登場に俺は圧巻された。俺の体重の2.5倍はありそうな彼女の出し物は黒人教会ネタで、ゴスペルの替え歌をやると言うので、俺たちは伴奏を付けようと「キーはなんだ?」と聞くと「キーってなあに?」と聞き返したと思ったら、いきなりアカペラで歌いだした。
あわててキーを捜すが、半音の半音位ちがう (A=440でない) ので合わないのだ。しかし、彼女のその声量や黒人独特のコブシは間切れも無く黒人教会の「それ」で、他民族の自称ブルース R & B シンガーが何年かかっても出来ない程のクオリティーだった。別にそこにいる客には、さほど珍しくも無く、替え歌の内容に大笑いしている。結局最後までアカペラで歌いきって本題の漫談に入った。替え歌は単なる「ツカミ」だった。さすがに神をオチョクッたりはしないが、「教会での出来事」ネタは彼女たちにとって最も身近な話題のようだ。

再度バンド演奏で司会者と入れ替わり、最後の出演者の呼び込みとなったが、誰も出てこない。バンド演奏はまだ続いている。俺はソロを取りながらあたりをキョロキョロ見渡した。
突然、今まで黙々とギターを弾いていた奴がネックを振り下ろして曲を止めた、と思ったら、ペラペラ喋りだした。奴こそが今夜の「トリ」を勤める「一番人気コメディアン」だったのだ。それはもうシモネタを基盤として体を張ったギャグ・・・・というより、ただタダ、シモネタのオンパレードで機関銃のように喋り捲くる。俺にはもう何を言っているのかさっぱり分からないくらい早口だが、会場は大うけでステージにチップを投げ入れてる。他の出演者には見られない光景だ。

散々喋り捲った後、再度ギターを持ち、弾き出した。俺たちはあわてて彼の演奏について行く。歌こそ歌わないが、今までの彼の演奏とはちがい、「ソロ弾き捲くり状態」で、バンドアンサンブルも「ヘッタクレ」も無い彼の独壇場だ。そのソロは彼の漫談と全く同じテンションで行われ、さらにチップを獲得した。ステージはもう、1ドル札でいっぱいだ。ギターソロのネタはとっくになくなり、グシャグシャになってステージに打ち伏せ、曲は終わり、幕を閉じた。

今年80歳になるという店のママに「私がステージを掃除してあげようか?」と聞かれたが、ギターの奴が間髪入れず、「自分でやります」と言い、ステージに散らばった1ドル札をサッサと拾い集めてズボンのポケットに全部つめこんだ。俺に「JAMってくれてありがとう」と一言いい残し、店の外へ出て行ったが、2度と帰っては来なかった。



[ Top ] [ ディスク・ガイド ] [ メキシカン・ミュージック] [ Now On Sale ! ] [ 掲示板 ]

[ T's music co Promo Film ] [ MySpace ] [ BlueSlim ]

Copyright (C) by Tetsuya Nakamura and Hiroshi Takahashi, all rights reserved.