第6回 黒人街のコメディーショー 「GIGの当日キャンセル」、「今日犯した失態」で息どうりを感じていた俺はウサを晴らすべく、「Jam」はないかと、日本人ドラマーのタカに電話した。タカはLA界隈のブルースクラブで活動している職業ドラマーで、時には月に25本も (殆ど毎日) 演ってるそのシーンの情報通だ。LAで日曜日の深夜までライブバンドを出演させるクラブは極端に減っているので、「最後の頼みの綱」とばかり応答を待った。すると休憩中のタカにマンマとつながった。ラッキー!電話口から店のざわめきが聞こえる。 俺:「どこで演奏(ヤ)ってんの?」 普段はキーボードの奴もいるが、ギャラが折り合わないので、来ていないと言う。やはり、客の少ない日曜日の深夜まで演奏 (ヤル) バンドのギャラはキビシイのだ。 俺:「チョッとシットイン (Jam) させてくれないかな?」 ラッキー! 客はまばらだが、一般的にスローな日曜日のこの時間帯にしては入っている。ドレスアップした中年カップルや、地元のコメディーファンが白い歯むき出しで大笑いしている。客も出演者も皆、黒人だ。お笑いの内容もレイシズムをてらったジョークやシモネタで黒人にしか通用しないモノばかりだ。近年「BET (ブラック・エンターテイメント・テレビ)」のコメディープログラムの影響で、こういったコメディーショウは一般的に再度人気が出で来たように思うが、テレビで見るより、その内容はかなり強烈でヒワイなモノだ。しかし、ライブということで、なにか熱いモノが感じられる。これはバンドと全く同じだ。 おもしろいなと思ったのはそれぞれのコメディアンの様相が漫談内容と一致することだった。遊び人風のコメディアンはダンスクラブや歓楽街でのジョーク、太った女性コメディアンはもっぱら食い物関係。いかにも素行不良っぽい奴はやはり刑務所ネタだった。どのタイプのコメディアンでも「キツイ、シモネタ」は必然だ。 俺は2本目のビールを飲み干した頃、ギターの奴の手招きで、ステージに上がった。 さらに何人かのコメディアンの漫談が終わり、今夜のショウでは一番でかい?!女コメディアンの登場に俺は圧巻された。俺の体重の2.5倍はありそうな彼女の出し物は黒人教会ネタで、ゴスペルの替え歌をやると言うので、俺たちは伴奏を付けようと「キーはなんだ?」と聞くと「キーってなあに?」と聞き返したと思ったら、いきなりアカペラで歌いだした。 再度バンド演奏で司会者と入れ替わり、最後の出演者の呼び込みとなったが、誰も出てこない。バンド演奏はまだ続いている。俺はソロを取りながらあたりをキョロキョロ見渡した。 散々喋り捲った後、再度ギターを持ち、弾き出した。俺たちはあわてて彼の演奏について行く。歌こそ歌わないが、今までの彼の演奏とはちがい、「ソロ弾き捲くり状態」で、バンドアンサンブルも「ヘッタクレ」も無い彼の独壇場だ。そのソロは彼の漫談と全く同じテンションで行われ、さらにチップを獲得した。ステージはもう、1ドル札でいっぱいだ。ギターソロのネタはとっくになくなり、グシャグシャになってステージに打ち伏せ、曲は終わり、幕を閉じた。 今年80歳になるという店のママに「私がステージを掃除してあげようか?」と聞かれたが、ギターの奴が間髪入れず、「自分でやります」と言い、ステージに散らばった1ドル札をサッサと拾い集めてズボンのポケットに全部つめこんだ。俺に「JAMってくれてありがとう」と一言いい残し、店の外へ出て行ったが、2度と帰っては来なかった。 |
|