私とデトロイト・ブルースの出会いは、もう数十年前になる。ジャケットの格好良さにひかれて手に取ったレコードが、「Detroit
Blues The Early 1950s」(Blues Classics 12)であった。サニーボーイ・ウイリアムソン二世がバックに付いたベイビー・ボーイ・ウォーレンで始まるこのレコード。ボボ・ジェンキンスやエディ・カークランドはもちろん、ジョン・リー・フッカーやDr.
ロスと言った大物や、ワン・ストリング・サムの身震いするような素晴らしいブルースなどが凝縮された、正に名盤と言うに相応しいレコードであった。
その中でも私の心に強く残ったのは、デトロイト・カウントという人の"Hastings Street Opera"という奇妙なタイトルが付けられた曲であった。当然オペラを演じているわけではない。ピアノの弾き語りで、歌というより早口で語りかけているような珍妙な曲である。当時は、ヘイスティング・ストリートがデトロイト随一の歓楽街で多くのブルースマンがたむろしていたと言うことも、歌詞の内容がそこに立ち並ぶクラブや店の名前を織り込んでいることをなどを知る由もなかった。
シカゴ・ブルースを「定型化された美」とするならば、デトロイト・ブルースは「プリミティヴな面白さ」とでも言えるだろうか。ドラムの代わりにウォッシュ・ボードが活躍したり、ツイン・ハープどころかトリプル・ハープで吹き乱れるなどという「珍品」もある。12小節の枠に囚われなかったり、戦前の弾き語りスタイルが1950年代まで録音されていたりもする。取っつきにくいが、噛めば噛むほど味が出るのがデトロイト・ブルースの魅力だろう。
こうして私は、シカゴ・ブルースの魅力に取り憑かれながらも、デトロイトの「雑多」なブルースの面白さにものめり込んで行ったのであった。
現在、デトロイトのブルース・シーンは正に活況を呈している。Metro Times Detroitという情報サイトには261ものブルース・サイトがリンクしている。ブルースを聴かせるクラブも70件近くあり、130以上のブルース・バンドが活動している。
しかし、アメリカ国内のブルース・レーベルはもちろん、「発掘」が得意なヨーロッパのレーベルも触手を伸ばさないので、私たちはそれらの多くを聴くことは出来ない。
デトロイトに構える少数のインディ・レーベル盤や自主制作盤を取り寄せ、どうにか彼の地の雰囲気を窺い知る事が出来る程度である。
ここでは、それらのCDを紹介し、なかなか注目されることの少ないデトロイトのブルース・シーンの魅力をお伝えしたいと思う。
さあ、モーター・シティに飛び出そう!
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