傀儡 (くぐつ) のよしなしごと 60 [ 2007年10月 ]


Halloween
Photo by Ariyo

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2007年10月1日(月曜日)

来月のスイス出張の日程をマネージャーへ問い合わせたら、『10月31日出発・・・わぁ、ハロウィーンね』とのメールがあった。そこで『ハロウィーンの仮装で飛行機に乗り込めますかね?』と訊いたら、『出来ない分けないでしょ』と返答される。

テロ対策の名目で、乗る度に厳しくなる空港のセキュリティが心配だったのだけれど・・・。


2007年10月8日(月曜日)

アーティスはビリーの誕生会で大混乱。

出勤途中の高速で、州警察のパトカーがオレのマキシちゃんをエラいスピードで追い抜くと、ハマーH3の真後ろにピタッと付けた。これは直ぐに御用となるに違いない。オレは間に一台を入れて、同じ車線で少し離れて様子を窺う。パトカー車載のコンピューターの明かりが見える。H3に不運の裏付けを取ったのだろう、2分も立たないうちにルーフの警光灯が一瞬黄色く瞬き、そして青赤に点滅し始めた。打ち上げ花火の爆発する瞬間を見るようで楽しい。目を付けられた運転手
の身になっても、御用を宣告される、その緊張感が何ともいえない。

帰り道のダウンタウン辺り、今度は対向車線に二十台ほどのパトカーが騒がしそうに停まっていた。土手に大破した車が見えるが、パトカーの数の割には消防車と救急車が少ないのはおかしい。

こないだのオハイオ・ツアーからの帰りに、対向車線で事故車を目撃した。夜中で、ましてや走っていたので全貌は分からなかったが、一台が土手の向こう側に落ちてごうごうと燃えている。消防車と救急車はまだ到着しておらず、二台のパトカーの警官が、高速道路脇に横たわる怪我人を介抱しているだけだった。現場から遠ざかりながら、けたたましい音で駆けつける消防車と救急車がそれぞれ二台ずつなのは目に入った。

つまり事故ならば、それが大きければ大きいほど、消防署配置の車両が目立つのに、この数のパトカーは大捕り物に違いない。高速を一旦降りて反対車線に潜り込むかと考えたが、バカバカしいのでそのまま帰宅する。

明け方近くのニュースは現場から生中継されていた。

「クスリの売人とチェイスで発砲、死者あり」

そしていつまでも塞がれたままの州間高速道路90.94号線ダウンタウン付近は、動くに動けないトラックなどで大渋滞を引き起こしていた。野次馬根性が勝っていたら、行き止まりの高速に立ち往生していたかも知れぬ。

「警察密着24時」に興味はないが、生活安全上の情報収集は必要である。その一線を越えて罰を受けずに済んだことを喜んだ。


2007年10月11日(木曜日)

本来ならロザの木曜日だが、SOBがレイク・フォレスト大学で演奏のため休む。

北の郊外に在る大学まで、サウスサイドに住むビリーのところからは70キロ近い距離がある。シカゴ市北端のオレのアパートからでさえ35キロ以上離れているので、州間高速道路の94号線(Interstate 94、略して「アイ・ナインティフォー」"I-94")が工事で混んでいるいるとの情報を得た大将は少し神経質になり、インターネットで調べた迂回路の下道が記されたプリントをメンバー全員に渡していた。

高速に限らずアメリカの道路番号は、偶数が横断(東西)、奇数が縦断(南北)と分かりやすい。デトロイト近郊のカナダ国境からインディアナ州を経て西へ伸びた94号線は、シカゴ市内でほぼ北に伸び、ウイスコンシン州から再びゆるやかに西へ向き始める。全長が2.500キロ以上のI-94にすれば、シカゴをばっさり縦断していても東西の幹線道路には違いないが、オレたちにとっては「北行きなら94号線」という感覚があり、実際レイク・フォレスト大学までは、高速を利用す
るとウチから45分程で行けるはずだった。

以前はよくドライブをした地域(2001年12月9日参照)なのでオレには何となく土地勘があり、15以上の間道を利用せねばならぬビリーのメモにざっと目を通すと、夕刻のラッシュを考慮しても一時間程で着くと読んだ。現場入り午後6時、音出し7時厳守。自宅は4時50分に出た。

ビリーはネット情報の「所要時間約1時間37分」を信じて4時20分出発。途中、道に迷ったと言い訳をする。ノースサイドのダウンタウン近くに住むダン(新メンバー)はややこしい迂回路が面倒で、唯一I-94を利用するも出発は4時45分だったらしい。ビリーと同じサウスサイド住民のニックは4時過ぎと証言。途中で道順のプリントを忘れたことに気付き、ビリーと連絡を取りながら、遠回りでも分かりやすい湖沿いに北上して来た。車を持たないモーズは、いつもの「お迎え」
任せで『Hの来るのが遅れた』と言い張るが、Hは『言われた時間に行ったじゃないか』と食い違いを見せる。どうやらサウスサイド付近を5時頃出たらしい。

5時55分到着、オレ。
6時2分到着、ダン。
6時28分到着、ビリー。
6時38分到着、ニック。
6時52分到着、モーズ。

ダンがI-94をすんなりと来たことでビリーは地団駄を踏み、風邪なのに遠回りして元気のないニックは鼻をズーズーさせ椅子にへたり込み、一時間近く遅刻してHへ責任転嫁したモーズは逆切れしながら現場入りをする。モーズについて言えば、電車やバスなど自力で来られる場合は、彼が一番乗りすることが多い。どこまでが本人責任か日本人としては線を引き難いが、それでも演奏が始まると、寸前までの騒動はすっかり忘れ去られてしまうことに慣れてしまった。

「時間」に自分を合わせようとする習性を変えたい願望と、常識ある社会人から脱落する嫌悪が混在したまま、遅刻常習が高じて無断欠勤しローザス・ラウンジを解雇されたMやVの、それでも痛みを感じないかのような平然とした生き様を羨ましく思う。


2007年10月13日(土曜日)

土曜日が休みなんてもったいない。いや、違うやん、本当は入ってたのに直前キャンセルされたんやわ。全員が黒スーツで決めるスイング系ロカビリー風バンドの"SP20s"と一緒やったはずやのに、残念。

薬と食料品他の安物チェーン(ではあるが決して値段がお得な分けではない)"CVS"で買い物。アホや、店員。手元の買い物袋に商品を入れて釣り銭だけを渡し、商品をじっと待っているオレに『まだ何か用があるのか?』って顔をされたので両手を差し出して催促したら、仏頂面で"What?" って癇にさわる物言いされたから、『オレが買った品物をくれ』ってゆーたったらやっと気が付いて、それでも謝らんと苦笑いしながらようやく渡した。ここで『ごめんなさいは?』って追い込んだら確実に揉めるから我慢せんならんのが悔しい。

おんなじようなときにいっぺん日本語で『よー謝らんのかお前は、ボケッ!』ってゆーたら、『何てゆーた今、なんてゆーたっ!』って突っ込んできたモンがおって、自分の失敗や態度は棚に上げてプライドだけは世界一のヤツが多いから面倒なことこの上ない。そのときは『アンタに仏さんのご加護がありますように("God Bless you"のパロディ)』ってゆーて気勢を殺がしたったけど、まぁこんな輩が総体で国になってる思たら、「したことは過小に、されたことは過大に」する難しいとこ(土地)ってことですわ。

その帰りに今度は赤信号で青矢印だけが出て、オレの前の車が直進オミットしてん。つまりやね、赤信号で止まってて、交差する側の信号が赤に変わるの見たら当然自分の信号が青に変わると思うわな。そのとき左折用の青矢印は出て直進はまだ赤で対向車線も左折可(こちらからみれば右折)の青矢印の場合がある。

そいつは多分、左右の車が赤信号になって止まって、自分の隣(左折レーン)の車が左折しようと動いたんで直進も青信号に変わったと早とちりして飛び出したんやと思う。でも突然対向車で左折(くどいけどこっちからは右折)してきた車とぶつかりそうになって、その瞬間自分の間違いに気付いたはずやねん。

オレやったら、オミットゆーてもちょっとだけやし、そこで止まったら対向車の左折に邪魔にならへんからブレーキ踏むわ。そいつもブレーキは踏みよった。でも行きよってん、左折車とぶつかりそうになりながら相手の車を止めて、完全に赤信号無視して直進しよった。

気持ちは分かる。自分の間違いを認めたくないってゆーよりも、他人から文句を言われたくないから、『何じゃぁ、こらぁ』って恫喝するねんわ、とりあえず。それは自分を正当化するってゆーのでもなくて、悪いのは分かってるけど責任を取りたくない自分勝手な「逃げ」や、罰が悪いのを恥ずかしくて誤摩化したい逆切れの勢い。まぁ、結局は落ち度を認めんと、最後まで悪あがきしたら「正当化」ってことになる分けやけど、何かこの国の他所の国に対する接し方と個人レベルで似てると思わへん?あっこ(あの国)が悪い、嫌いってゆーってしもたことも含めて、戦争とか、始めてしもたことは途中で間違いって気付いても、言い訳の立つ結果を出すまでは後戻りできひん体質ってゆーか、似たような国は多いんかも知れんけど、ここが世界で一番強いとこやし余計目立つんやろな。

そうゆーたら日本でも、『アカンかったらキレたったらエエねん』ってボクシング一家が話題になってたみたいやけど、『どんな手ぇ使(つこ)ても勝ったらエエねん』っちゅのは、人間も社会も成長・発展がないわな。大体自分には嘘吐けへんし堂々とできひんねん。そういう人(国)にとっては謝るってすっごい勇気要ることやわな。

でも、口では簡単に謝るけど、おんなじこと繰り返してたら誰も反省してるって思わへんし、対人と国同士の外交はやっぱし似てる。声が大きいだけの人の意見が通りやすい世の中と違って、「道理」が通る社会になって欲しい。そのためには「知恵」がもっと必要かも知れんわ。


2007年10月15日(月曜日)

モーズが交通事故!!

アーティスの休憩中、知り合いのおばさんが興奮して店へ飛び込んできた。『アリヨ、あんた、今モーズがそこで車に当てられたよ!』

慌てて冷たい小雨の表へ出ると、消沈したモーズが消火栓に腰掛けて、横腹辺りを抑えている。外傷の有無、痛み、痺れ、特に腰や首の衝撃などを問い、頭を打っていないことを何度も確認してから動かないように指示をした(オレは医者か!)。

側にいたダン新メンバーによると、『この車が通りからUターンしてきて、こっちを横断中のモーズにコツンと当たって彼が道に倒れたんだ。当たる瞬間に車は減速していたし、運転者も彼を認識していたから、それほど強くはなかったと思う。倒れた衝撃の方が大きかったかも知れない』

冷静中立な目撃者のダンの話では大したことはなさそうだったが、かのおばさんが店中に言い触らしたお陰で、他のメンバーや従業員を始め、常連客たちまでがぞろぞろと出て来る。加害者の若い黒人女性は、自分はこれからどうなるのだろうかと不安げな表情で立ちすくんでいた。閑静な住宅街とはいえサウスサイドの黒人街。彼女が恐れるのも無理はない。(2007年7月6日参照

『誰か警察に電話した?』

と声を張り上げると、みんなが顔を見合わせる。加害者も相当動揺しているのだろう。いや、何とか穏便に済ませたいという気持ちが働いているのかも知れない。しかし常識では、被害者の様子を見て直ぐに警察へ連絡するのは本人だろう。これは「人身事故」なんだから。

メンバー某の彼女のRが『警察へ電話した方がいい?』と訊いてきた。オレは加害者が自動車保険に加入しているのを確かめてから、Rへ『お願いします』と告げる。そしてモーズに救急車が必要かどうかを尋ねた。彼は大丈夫そうだというが、仕事の途中ということもあって大事にはしたくなさそうだった。しかし転んだ拍子に左腕を打撲し、腰も少しひねったようだ。交通事故の場合、その時は自覚しなくても翌日に痛みが増したり、思わぬ所が折れていたりすることもある。今後女性の保険料は少し高くなるだろうが、どうせ大儲けの保険会社が費用を出すのだから、病院で検査だけは受けて「大丈夫」なお墨付きをもらっておいた方が良い。ましてや彼は60歳を過ぎているのだから。

Rに『救急車も』と頼む。

それほどのことには見えない「交通事故」に、見物客の大半は店内に入ってしまった。モーズの彼女が加害者と保険会社の連絡先を訊き、ビリーは自分たちの仕事と、モーズが真面目な正直者であることを説明して女性を安心させる。

気が付くと見知らぬ黒人男性二人が加害者に近付き彼女を抱きしめた。応援を呼んだようだ。ビリーは彼らにも女性と同様の説明をして、客で来ていたドラマー、トレイルにモーズの代役を頼む。アーティスには常連のミュージシャン客が多く、トレイルなら普段オレたちが演る曲はほとんど知っている。

しばらくして消防車とともに救急車が現れ、モーズを車内へと連れ込んだ。やがて救命士はオレに搬送先の病院名を告げると、サイレンなしの赤い回転灯だけで去っていった。そして最後まで警察は来なかった。(2004年1月23日参照


2007年10月17日(水曜日)

ジェネシスの水曜日。月曜日の件で、あわよくばもう少しSOBでドラムを叩きたいトレイルから連絡があった。昨日ビリーと話したら本人は大丈夫だと言っていたらしいので、トレイルには月曜の演奏後のドラムセット解体の手伝いの礼を告げ、『また今度一緒に出来ることがあればいいのにねっ』と言ったら、彼はモーズの容態を喜んだ言葉とは裏腹の声色でとても残念そうに電話を切った。

ジェネシスでは案の定(!)元気なモーズが、『月曜日はありがとう、お陰で検査の結果どこも異常はなかったし、痛みもないよ』と報告する。しかし医者は3時間も姿を見せず、迎えにくるはずの彼女のPからも連絡はなく、気が付けば朝になっていたので、ひとりバスで帰宅したと愚痴をこぼしていた。

大昔のこと、「車好きアンド事故処理好き」の京都の友人たちとの間では、『一事故二百万円(の慰謝料)』が常識だった。モーズはやはり真面目な正直者である。


2007年10月20日(日曜日)

メジャーリーグ、プレイオフ大詰めのこの時期、応援するチームが勝ち残っているのは嬉しい。愛しの阪神が消えているだけに、殊更嬉しい・・・って、松阪の登板するレッドソックスの試合、それもリーグ優勝が決まる第7戦の中継をなんでせんのじゃっ!地上波ならまだしも、ケーブルでもFOXの野球専門局でしか全米中継してなかったぁ?オレんとこのテレビは、ケーブルでもベーシックのちょっと上の契約なんで、FOXなんたらって入らんのじゃぁ!NFLの日曜中継と競るのがそんなに怖いのかっ、この弱腰ぃ!って、どの局に文句を言ってよいのか分からんが・・・。

午後10時、試合もそろそろ終わっているだろうと、スポーツ専門局のESPNのニュースを観てみると、のっけに松阪のカットが一瞬映ったものの、本編で活躍するシーンは皆無。いや、打たれたところだけはしっかりと放映されていた。その後の解説では、岡島の踏ん張りにパペルボンの剛球奪三振はクローズアップされるが、日本のエースへの言及も皆無。監督の記者会見で岡島の名は出ても松阪はなし。日本のニュースをネットで読むと、監督も当然松阪に触れていたようだが、少なくともこちらの野球ファンには、『松阪ぁ、普通やん』って印象しか残らないのが悔しい。日本人だからって応援するのは、純粋なスポーツファンとしては矜持に反するが、最近の松阪の消沈したシーンばかりをテレビで映し出されると、母国愛が刺激されることは確かだ。

それにしても岡島ぁ、よお頑張ったなぁ。ESPNの解説陣も『オカジィイが二回を零封したのが大きかった』って評価していた。巨人出身っちゅのが気に入らんかったけど、地元で隣の高校(私立東山高校、通称「ガシ」)出と聞いてからは応援してるでぇ、って、矜持はどこへいったぁ?


2007年10月23日(火曜日)

「モリー・ソチャットとスペシャル20ズ」でハウス・オブ・ブルース。

現在シカゴで開催されている、国際ボクシング競技会のオフィシャル・ドクターだという年配の日本人の方に声を掛けられる。

『いっやぁ、音楽の世界でも海外で日本人が大活躍しているとは嬉しい。いやぁあ、大したもんだぁ!』

専門が脳外科というこの先生は少しお酒がまわられていたようで、盛んにオレや同胞ギターのS君を持ち上げたが、聴いているのかどうか分からないような観光客相手のHOBレストランで、地元でもほとんど無名のバンドの端に混じって演奏しているだけに、大変複雑な気持ちである。思わず今週末のビリーたちとのロザでのライブをお知らせしたが、それにしたところで、先生の発した『大活躍』の言葉とはほど遠いことに変わりない。

休みの日のアルバイトも楽しいが、自分自身に「活躍してる」と自負させる場面は、一年を通してそう多くはない。こういう奇特な先生とは、そんな時に出会いたいものである。


2007年10月25日(木曜日)

前の二回がSOBの仕事などと重なったため、三週間振りのロザ。リトル・エドがドラムを叩き、イタリア出張中のジェームスに替わりジミー・バーンズが唸り、ルリー・ベルがはしゃいだ豪華な夜だった。


2007年10月26日(金曜日)

SOBでロザ二連ちゃん。

モーズの顔付きがどこか違う。挨拶するなり『今日、総入れ歯にしたんだ』と嬉しそうに笑った。カバの口のような歯抜けだったのが、いよいよ真新しい紛い物が装着されると口元は締まって見える。ただし、まだ馴染まないのか合わないのか、大きなあめ玉を舐めながら喋っているようで、フガフガとして聞き取り辛い。

『せっかく作ったんだから、どこかに置き忘れたり、落としたりしないようにね』と忠告する。おっちょこちょいのモーズのことだから誰かからも言われているに違いない。聞き飽きたという仕草で顔を横にプルプル振ったので、『オレの死んだ祖父は、一度トイレに上の歯を落として大変だったんだから』と付け加えた。彼は一瞬プッと吹き出して爆笑しかけたが、口を大きく開けることをようやく我慢して、歪(いびつ)で上品な笑顔に抑えた。きっと祖父が入れ歯を洗って再使用する妄想に取り憑かれてしまったのだろう。禅宗の高僧だった祖父がそんな真似をするはずはないが、オレは伝聞した事実を正確に伝えたかった。

『それもトイレは汲取式だったんだ』

彼は堪らず大口を開けてしまったが、幸い入れ歯に異常を感じることはなかったようだ。それでも用心したのか一晩中、歌、MC、会話など、腹話術師を演じるモーズであった。


2007年10月28日(日曜日)

レッドソックス、あっさりと世界一に。

試合中は風船ガムを帽子の上に付けられた松阪や、せっかく登板したのにアウトひとつでツーランを浴びてベンチでふさぎ込む岡島の姿は映されていたが、優勝してマウンドで選手が抱き合う場面やシャンパンかけのシーンに、その後いろんな局のニュースでも目を凝らしていたが、二人の顔が映し出されることはなかった。

本編のエンディングでは、松阪と岡島が僅か0.5秒ずつだったのに、松井は自チームに有名選手が少ないせいもあって1.5秒のカット。ボストンが人気選手だらけのチームだから尚更、二人の日本人が「顔」のひとりになるには相当成績を残さねばならないようだ。

イチローを除き、母国で報道されるほど、こちらで注目されている日本人選手はいない。それはオレたちの業界も同じこと。ただ商業音楽は顕著な人気商売なので、肌の色や言葉の問題もあり、「勝つことが目的」のプロスポーツのように、実力がそのまま反映されるとは限らない。ゴルフのトーナメントプロの「賞金王」の地位は、活躍した証としての称号なのだ。

だから分をわきまえ、無駄な幻想を追わぬことが必要かも知れない。地にしっかりと足を着け、コツコツと真面目に演奏しているといつかは・・・そう、だからいつか「どうなりたい」のだろう?

日本人がブルースの本場でミュージシャンとして生活出来るようになった。いろんなレベルの人がいろんなレベルの店で演奏している。回数を競うなら、オレはシカゴでもトップの一人かも知れない。だからその「質」であり、稼ぐ金の「多寡」が自己欺瞞を打ち砕く目安になる。「質」は分からない人も多いだろう。だが、指(口、唇)がまだ動くならば、数ヶ月前の演奏からは成長していることを「自分に証明」せねばならない。そして「ある程度の値段」は「質」のある仕事に伴う。

だからオレは、いつか「どうなりたい」というのだろう?


2007年10月31日(水曜日)

本日より11月11日までスイス(ルツェルン)出張のため、日記の更新をお休み致します・・・おおお、ようやく更新が追いついてきたかぁ?