John Brim

夏が来ればやって来る、アイスクリームマンに御注意を!の巻


1994 Chicago Blues Festival


夏がやって来たよ。なにか冷やすものが必要だね。
ちょっと、お嬢ちゃん。僕はそのなにかってのを持ってるよ。
僕は君のアイスクリームマンなんだ。
僕が通り過ぎたら、声をかけて止めてよ。
僕が冷やしてあげるよ。100%満足を保証するよ。
クリームサンドに、セキシーカップに、ポプシクルに、プッシュアップアイスクリームも持ってるよ。
いつも僕は11時頃にやってくるから。
今回僕に君を冷やさせてくれるなら、これからはいつも君の前では止まるよ。
パイナップルをはじめ全部の味があるよ。これがその一つだよ。
君にぴったりの味だよ。
 ("Ice Cream Man" Written by John Brim )

こんな恥ずかしい歌詞を、心地良いチェス・サウンドにのせて唄う男、ジョン・ブリムは、1922年4月10日にケンタッキー州ホプキンスヴィルに生まれた。幼年期の彼は、ビック・ビル・ブルーンジー、サニー・ボーイ氈Aロニー・ジョンソンやタンパ・レッドなどのブルースマンを好んで聴いていたらしい。特にお気に入りはビック・ビル・ブルーンジーであったと言い、この事はブリムの初期のギタープレイからも影響の程を伺える。
もともとはハーモニカからスタートした彼だが、すでに幼い頃からギターを手にしており、19歳の時に地理的に近いセントルイスでもなくナッシュビルでもないインディアナポリスを目指して65号線を北上して行った。それが1941年の事である。当時の彼女がピーティー・ウイーストロウを贔屓にしていたらしく、彼に会うためにインディアナポリスに向かったのかも知れない。実際ブリムは「ピーティーに会って一緒にプレーをした」と言っているが、その人物はピーティーズ・バディと名乗っていたハーモン・レイの事であった。間抜けな落ちが付いたが、そこは大都会の事。レイの他にもジャック・デュプリーやピート・フランクリンら大勢の大物達とプレーをし、ギターの腕前を上げて行った。余談になるが、この時ブリムは昼間の仕事としてクリーニング店で働きだした。その後、この仕事は続けており1994年現在でも、たまに手伝いをしているらしい。

ブリムがシカゴにやって来たのは1945年の10月の事だった。さっそくサニー・ボーイ氓礇r.クレイトン、タンパ・レッドらと仕事を始め、47年にはシカゴで出会ったグレースと結婚している。すでにグレースはハープと歌を唄っており、ここに名コンビが誕生したわけだ。
そんな彼らの初録音は、1950年にビッグ・メイシオに誘われて、デトロイトのフォーチュンに残したものであった。当時、ビッグ・メイシオは既に半身不髄となっており、左手のみしか使えなかったが、ジャームス・ワトキンスに右手パートを弾いてもらい最後のレコーディング・セッションに臨んだのであった。ここでは、まずメイシオのリードで6曲を録音。全曲でブリムがギターを弾いており、2曲でグレースがハープを吹いている。ブリムのギターはまァ良いとしても、問題はグレースのハープ。なんと、キーが違うのだ。曲のキーがA♭なのでハープはD♭になるわけだが「そんなキーは持っていないわ、隣のCでどうかしら」てな感じだったのだろうか。聞き苦しい事このうえない。
続いて、グレースがリードを取り3曲を録音。そのうち2曲がSPで発売されている。"Strange Man" (alt.tk)ではジェームス・ワトキンスは参加していないが、やはり右手パートの入った本テイクの方が完成度は高い。なお、"Mean Man Blues"は未聴につきコメントは出来ない。

A Fortune Of Blues
(Regency Records RR.119)

1951年にはルーズベルト・サイクスを従えて、ランダムと言うレーベルに4曲を録音する。ここで始めてブリムのヴォーカルを聴く事が出来た。ブリムのギタースタイルに若干の変化はあるが、まだまだシティスタイルの影響をひきずっている。余談だがこの頃ブリムはファーザー・アンド・サンと言うレコード・ショップを開店させていて、クリーニング業と平行して二足ならぬ三足のわらじを履いていくのであった。

Authorized Blues
(Anna Bea Records ABCD-451)

さて、1951年9月、いよいよJOBでの録音が開始される。
まずは、サニーランド、ムーディー・ジョーンズを従えて5曲を収録する。バックの好サポートもあり良い雰囲気に仕上がっている。特に昔から名作とされているのが、哀感漂う"Trouble In The Morning " とサニーランドとの唸り合戦の"Humming Blues"である。さらっと唄っている様にも聴こえるが、良く聴くと深い味わいのあるブリムのヴォーカル。さらにギターに絡みつくサニーランドのピアノが彩りを添えている名作だ。
JOBでの二回目のセッションは約一年後の1952年8月に行われた。この間に彼らは、シカゴから南に下ったゲイリーに居を移している。今でこそ鉄鋼産業の衰退と共にさびれた街となってしまったが、当時は有り余るほど仕事のある街だったのである。この街でブリムはゲイリー・キングスと言うバンドを結成し、地元やシカゴで精力的に演奏活動をこなしていたらしい。また、この頃グレースはブリムに勧められドラムを始めている。先生は、なんとオーディー・ペインが務めており、ゲイリーまで出張して教えていたと言う。
JOBの二回目のセッションでは、グレースも2曲唄い、ハープも吹いている。さらに特訓の成果があった(?)彼女のドラムスが始めて付いた録音となっている。バスドラだけだが、それによりサウンドのダウンホーム度に深みが増している。また、エディ・テイラーらしいギターも一部の曲で参加しているが、これが目立ちはしないが好サポート。さすが職人である。
また、1952年の後半には、当時のサニーランド・バンドをバックに2曲を録音。テナーも入り、サウンドはシティー寄りに戻ったが、インディアナポリスで知り合ったリトル・ピートのギターがかっこいい。ブリムにはこのサウンドが似合うように感じるのは私だけであろうか。

Original J.O.B. Recordings, 1951-53
(P-Vine PCD-2176)

Chicago Blues Down-Homers !
(P-VINE PCD-24089)

さて、未発表のJOBセッションをはさんで、1953年からは最高傑作の誉れ高いチェスでのセッションが始まる。ところがこれが彼の不運の始まりでもあったのである。
まずは「ハウンド・ドック」の改作"Rattlesnake"と典型的な50年代シカゴ・サウンドとなる"It Was A Dream"を録音したが、改作したのを告訴されるのを恐れ、結局レコードは回収されてしまったのである。
なお、このセッションでのパーソネルは、ブルースのディスコグラフィの大作「Blues Records」では、エイシズが参加となっているが、1994年にリイシューされた「Whose Muddy Shoes」(MCA MVCM-22029)では、ロバート・ロックウッド Jr.が参加となっている。
私自身、長年どちらの説が有力か決めかねていたが、今年(2001年)になって、現在ブリムのマネージメントを務めているAnna Bea RecordsのJan Arenas氏の協力で、インタビューをすることが出来た。それによると、「ウォルターやルイス達と一緒に"Rattlesnake"を録音した」とのこと。79歳という高齢だが、当時の記憶はかなりハッキリしており、細かい部分も即答していた。そのことからも、まず間違いはないと思われる。

二ヶ月後の1953年5月には、早くも2回目のセッションを行い"Ice Cream Man"という傑作を残す。
ここでも、ディスコグラフィーは二つの説に分かれる。MCA盤では、ハープにジェームス・ダルトン、ギターにW.C.ダルトン、ドラムはグレースとしているが、これも先のインタビューで「ウォルターとエディ・テイラーが参加した」と証言している。
それにしても、"Ice Cream Man"は良く出来た曲である。グレースによると、ブリムはアイスクリームの種類に詳しくなく、その部分は彼女が手伝ったと言う。ちなみにパイナップル味はグレースの好きな味なのだそうだ。
ところが、又してもブリムに不運が襲う事になる。もともとレナードはブリムよりもグレースを全面に出したかったそうだが、"Ice Cream Man"の歌詞をめぐり決定的な衝突をすることになるのだ。なんとレナードが「パイナップル味のアイスなんて聴いた事もない」と、イチャモンを付けたのだった。現場に居たリトル・ウォルターが間を取り持って何とか録音はしたが、結局お蔵入りとなり、レナードの死後、LP「フーズ・マディ・シューズ」が発売されるまで陽の目を見る事は無かったのである。我々の感覚で行くと「なんでそんな事で!?」と驚かされるが、黒人と白人の食文化の違いで衝突する事は珍しい事ではないらしい。ティーチャー氏によると、録音の為マッスルショールズを訪れたアレサ・フランクリン夫妻が、前の晩に出された酒の種類が気に入らず、スタジオに入る事なく帰ってしまった事もあったそうだ。

Whose Muddy Shoes
(MCA Victor MVCM-22029)

失意のブリムはその年の12月に、パロットのセッションで2曲を録音する。実はこの年に、彼はゲイリーでアルバート・キングと出会っており、前の月にアルバートの初録音のセッションの為にスタジオ入りしている。その伝手でこのセッションが実現したと思われる。
ここでのハーモニカは、「Blues Records」ではジミー・リードとなっていたが、ずいぶん前から「スヌーキー・プライヤーが吹いている」と言われており、私もそれを疑っていなかった。しかし、インタビューでは「ジミーがハーモニカを吹いた」と即答。長年の「定説」を覆す重要な証言だ。
このパロット・セッションは充実した内容であり、特に"Tough Times"は彼の最高傑作と言う人も多い。実際に彼のレコードのなかでは一番売れたと言う。この2曲は、後にチェスに買い取られ、「Whose Muddy Shoes」に収録されることになる。

その後、1955年と56年に再びチェスでのセッションを行うが、内容の素晴らしさとは裏腹に商業的な成功には程遠い結果に終わり、チェスを去ることになる。
「チェスは、マディやウルフ、チャック・ベリーやボ・ディドリーなどの金になるスターを多く抱えていたからね。自分はクリーニング業が成功していたし、奴らはオレのレコードは売れると言っていたけど、まあ、自分から辞めたのさ」と本人は言う。
チェスでのラスト・セッションとなる「Be Careful」「You Got Me」は、バックの素晴らしさもあり、50年代シカゴ・ブルースの極上のサンプルとなる作品である。

Hand Me Down Blues
(Relic 7015)

その後のブリムは、ゲイリー・キングスと共にクラブやパーティーでの演奏を続けていたそうだが、1963年には再びシカゴ引っ越し、クリーニング業を再開した。この時、グレースと別居。グループは解散し、しばらくは全くショー・ビジネスから足を洗っていたらしい。
ところが、1971年に突然自己レーベルのB&Bを興し、第一弾のシングル「ユー・プット・ザ・ヒート・オン・ミー/ムービン・アウト」(BB1001、Wolf CD 120.858に収録)を発表する。息子とグレースを伴ってのレコードであったが後が続かなかった。

Chicago Blues Session Vol.12
(Wolf 120.858 CD)

70年代は細々とクラブでの演奏を続けていたらしいが、76年にヴァン・ヘイレンが"Ice Cream Man"をカヴァーするというトピックスがあったにも関わらず、本人が浮上してくる事は無かった。
しかし、1990年に前述のWolfのChicago Blues Session Vol.12で復活。その後、1994年にTone- Coolから本格的な復帰作を発表し、演奏活動を再開させている。私はその年にシカゴで彼を見ているが、苦しそうに唄い、つたない指を動かしギターを弾いているのが印象的であった。

The Ice Cream Man
(TONE-COOL CD TC 1150)

Blues Before Sunrise
(DELMARK DE-699)

最近もデルマークからライブCDを発表したり、菊田俊介氏情報では、ヒューバート・サムリンのバースディ・パーティーで演奏するなど元気で活動しているらしい。
また、2001年3月には、10年間活動を共にしてきた「The Tough Time Boys」と共に制作アルバムを発表。バックアップ陣の愛情が溢れる素晴らしいアルバムだ(詳しい情報は、こちらをご覧下さい)。

Jake's Blues
(Anna Bea Records ABCD-499)

浮かばれないまま消息不明のブルースマンも少なく無いなか、これは、喜ばしい事と素直に受け取って良いのではないだろうか。皮肉にも、チェスでのレコーディング作はエルモアとのカップリングであるために、これからも廃盤になることなく後世に受け継がれて行く事であろう。たとえ不運なミュージシャン人生であったとしても、彼のユーモアと苦しみが入り混じった名作の数々は、永遠に不滅なのである。

LPs

Black Cat Trail
(Mamlish S-3800)

Chicago Slickers
(Nighthawk 102)

Chicago Slickers Vol.2
(Nighthawk 107)

John Brim & Little Hudson
(P-VINE PLP-9020)

Otis Rush And Buddy Guy, The Final Takes And Others
(Flyright 594)

Genesis 3
(Chess(UK) 6641174)


John Brim Discography

John Brim Combo or Gracie Brim
Grace Brim, v/hca with James Watkins, Big Maceo Merriweather, p ; John Brim, g
Detroit,1950
(1) Strange Man  Fortune 801 (A)
(2) Strange Man (alt.tk)  (B)
(3) Mean Man Blues Fortune 801 (C)

John Brim or MRS. John Brim
v-1/g with Gracie Brim, v-2; Roosevelt Sykes, p
Chicago, 1951
(4) Dark Clouds-1 Random 201 (D)(M)(O)
(5) Lonesome Man Blues-1 Random 201 (D)(M)(O)
(6) Going Down The Line-2 Random 202 (C)(E)(M)(O)
  Leaving Daddy Blues-2 Random 202 (O)

John Brim Trio
v/g with Sunnyland Slim, humming-1/p; Moody Jones, b. Chicago, 27, Sep 1951
(7) Young And Wild (F)(G)(H)(M)(N)
(8) I Love My Baby (F)(G)(H)(M)(N)
(9) I Love My Baby (G)
(10) Trouble In The Morning JOB 110 (F)(G)(H)(M)(N)
(11) Humming Blues-1 JOB 110 (F)(G)(H)(M)(N)

Grace Brim or John Brim & His Trio
v-1/g with Grace Brim, v-2/hca-3/d; Sunnyland Slim, p; Prob Eddie Taylor, g-4; unk b. Chicago, 22 Aug 1952
(12) Man Around My Door-2,3 JOB 117 (F)(G)(N)
(13) Hospitality Blues-2 JOB 117 (F)(G)(H)(N)
(14) Hard Pill To Swallow-1,4 (F)(G)(H)(M)(N)
(15) Hard Pill To Swallow-1,4 (I)
(16) Drinking Woman-1 JOB 1011 (C)(E)(F)(G)(M)(N)

v/g with Ernest Cotton, ts; Sunnyland Slim, p; Pete Franklin, g; Big Crawford, b; Alfred Wallace, d. Chicago, late 1952
(17) Don't leave Me (F)(G)(H)(M)(N)
(18) Moonlight Blues (F)(G)(H)(M)(N)

No details.
  Couldn't Take My Rest JOB unissued
  Where Have You Been So Long JOB unissued

John Brim or & His Gary Kings
v/g with Little Walter, hca; Louis Myers, David Myers, g; Fred Below, d. Chicago, Mar 1953
(19) Rattlesnake Ckr 769 (J)
(20) It Was A Dream Ckr 769 (K)

v/g with Little Walter, hca; Eddie Taylor, g; Elgin Evans, d. Chicago, 4 May 1953
(21) Lifetime Baby (J)(K)
(22) Ice Cream Man (J)(K)

& His Stompers
v-1/g with Jimmy Reed, hca; Eddie Taylor, g; Grace Brim, d. Chicago, Dec 1953
(23) Tough Times-1 Parrot 799 (J)(K)
(24) Gary Stomp Parrot 799 (J)(K)

& His Gary Kings
v/g with James Dalton, hca; W.C. Dalton, g; Grace Brim, d Chicago, Jan 1955
(25) Go Away Ch 1588 (K)
(26) That Ain't Right Ch 1588 (K)

v/g with Little Walter, hca; Robert Lockwood, g; Willie Dixon, b; Fred Below,d.
Chicago, 5 Apr 1956
(27) Be Careful Ch 1624 (J)
(28) You Got Me Ch 1624 (J)

(A)「Black Cat Trail」Mamlish S-3800 【LP】
(B)「A Fortune Of Blues」 Regency Records RR.119
(C)「Take A Little Walk With Me」Boogie Disease 101/2【LP】
(D)「Chicago Slickers」Nighthawk 102【LP】
(E)「Chicago Slickers Vol.2」Nighthawk 107【LP】
(F)「Johnny Shines, John Brim & Floyd Jones」P-Vine PCD-2176
(G)「John Brim & Little Hudson」Flyright 568【LP】
(H)「Trouble In The Morning」KC CD 03
(I) 「Otis Rush And Buddy Guy, The Final Takes And Others」Flyright 594【LP】
(J)「Whose Muddy Shoes」MCA Victor MVCM-22029
(K)「Genesis 3」Chess(UK) 6641174【LP】
(L)「Hand Me Down Blues」Relic 7015
(M) 「Authorized Blues」 Anna Bea Records ABCD-451
(N)「Chicago Blues Down-Homers !」P-VINE PCD-24089
(O)「Roosevelt Sykes Vol 9 1947 - 1951」 Document BDCD-6049

(1999年9月27日記)
(2000年11月3日改訂)
(2001年3月22日改訂)
(2001年4月25日改訂)
(2001年9月15日改訂)


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