傀儡 (くぐつ) のよしなしごと 54 [ 2007年4月 ]


Photo by Ariyo

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2007年4月1日(日曜日)

一昨日、滅多に出演機会のないジャズバーで一緒に演奏したばかりのKurt Crandaleと、今晩はハウス・オブ・ブルースにて。9連勤の終わりに近いのでフラフラ。

Cのキーのスローブルースのソロ頭をGのキーで弾き始めてパニックに陥る。こんなことは初めて。醤油をかけるべき豆腐にウスター・ソースをかけた如し。

フィリックというテキサス・スタイルのギタリストに『中々おしゃれなジャズのフレーズだったね』と褒められる。

豆腐の喰い方を知らないヤツで良かった・・・。


2007年4月5日(木曜日)

最近好調な入りが続くロザのセッション。メキシカンのミュージシャンにメキシカンと間違われた。きっと窓に張り出されたオレのポスターや告知されている"Ariyo"の名前のせいかも知れないが、何となく嬉しかった。


2007年4月6日(金曜日)

日本の友人へ送信した一月のメールに、「暖かいマイナス4℃」という件名があった。そして今朝の気温もマイナス4℃。ただし四月に入ってからこの気温はさすがに寒い。

週末のキングストン・マインズ初日。演奏を終えて車まで歩いた僅か数ブロックの距離も、午前4時過ぎのマイナス6℃を侮った、薄手のシャツに皮のコートという薄着が身体の芯まで凍てつかせる。手をポケットに入れていても、血行の良いオレにすれば珍しくかじかんでいった。

車内が暖まるまでプルプル小刻みに震えていると、反対側の歩道を歩く白人の若者の姿が見えてきた。近くの車に乗り込む様子もなく、余程楽しいことがあったのか、顔をにやけさせて彼は通り過ぎて行った。ただし、カッターシャツ一枚の姿で・・・。

まぁ、春めいてきたシカゴのことだから、彼がパンツ一丁で歩いていても驚きはしないが。


2007年4月13日(金曜日)

先週 人から『これ秘密なんだけど』って聞かされてて ひょっとしてとかは思ってた

『市長室イベント課の内部資料見せてもらってね、今年のブルフェスの出演者リスト。アリヨの名前があったよ。ソロで出演するの?』
『えっ!?嘘やん、そんなん聞いてへんで。それ、SOBの結成30周年記念のメインステージ出演者リストに、オレの個人名が載せられてたん、違うん?』
『いや、別の時間帯の別のステージだったよ。これ、誰にもまだ言っちゃだめだよ、内緒で見せてもらったから』
『・・・』

当人にとっては内緒ごとよりも、本当にオレが個人名で出演するのかどうかの方が大事(おおごと)である。

そして昨日、ブルフェス・スポンサークラブのひとつであるロザのトニーにその件を話したら
『えっ、アリヨまだ知らないの?ボクもイベント課からのEメールでアリヨの名前を見たよ。リストは秘密じゃないし、市のHPでもスケジュールは発表されてるよ』

http://www.chicagobluesfestival.us/

そんなん知らんがな マネージャーからも誰からも聞いてへんしそれもひとりで一時間・・・えらいこっちゃ


2007年4月26日(木曜日)

しとしとと雨。昼間、市立ハロルド・ワシントン大学でビリーたちと演奏。

学校がキーボードを用意してくれるという恩恵に与り、ダウン・タウンの駐車事情は最悪なので、CTA電車で出勤することに決めていた。

昨日はジェネシスで今晩もロザで演奏するから、分割睡眠はいつものことながら、少しでも長く眠っていたいとギリギリに自宅を出る。

ビザ取得に弁護士事務所へ通っていた頃、ウイルソン駅(2001年12月3日付参照)をよく利用した。周りは住宅地で、昼間の路上駐車が容易だからだ。近所には後輩ピアニストのTが住んでいて土地勘もあった。

他の路線はサウス・サイドやウエスト・サイドに続くため、乗客のガラが悪くなることもあるが、ブラウン・ラインは比較的落ち着いた住居の多い北西からダウン・タウンのループをぐるっと回って元に戻るので、車内も車窓ものんびりとしている。駅間の短い高架をガタゴトとゆっくり進む電車の大きな窓から、徒歩や車からは窺えない家々の緑豊かな裏庭や、屋上に設(しつら)えたテラスなどを眺めるのがオレは好きだった。

駅から一ブロック半の場所にスペースを見付け、雨を気にしながら車外へ出る。久し振りの電車だが、昨夜の内に一ドル札は何枚も選別していた。向上指向のないアメリカの自動販売機はほとんどが釣り銭機能もなく、読み取り不能で受け付けない札が多いため、片道の$2に対し、質の良さそうな一ドル札を8枚ほどポケットに入れていた。それを取り出しながら角を曲がった所で異変に気付く。駅がない!

瞬時に『・・・ブラウン・ライン老朽化で・・・駅改築・・・』というテレビニュースの断片が蘇る。どこの駅で工事が始まったのかなど、日頃使わないから興味もなかったが、日本なら利用者に不便のないように「仮設」するはずだ。昨今のガソリンの高騰($3.5/ガロン:約\110/リットル・・・日本と変わらん!)といい、古くは狂牛病やイラク戦争など、目に見えた文句の出ないアメリカ人はお上に恭順に思えてならない。

うう、遅刻しないためにダウン・タウンの馬鹿高い駐車場へ車を入れるか、それとも別の駅の未知の駐車事情に掛けるか。

一駅前ではなく一駅先にしたのが幸いしたかも知れない。線路沿いに真っすぐ南へ下がると、直ぐにアーヴィングパーク駅前へ出た。周辺は駐車が難しそうに思えたが、駅から2ブロック半のところに一カ所だけ発見。しとしと雨の中を2ブロック以上は嫌だが文句は言えぬ。つんつん頭を立てる原料のワックスを気にしながら半ブロックほど歩くと、しとしとが急に土砂になった。

アリヨ、つんつん頭を雨でしならせ、気持ちをヌルヌルにへこませる。