Mississippi Morris and Brad Webb


2000年秋、ワイルドターキーのTVコマーシャルにブルースマンが登場し、多くのブルースファンを驚かせた。
Web上では「あれは、誰だ!?」という発言が飛び交い、多くの憶測が流れた。その後、ギター編はパット・トーマス、ピアノ編はデヴィット・キンブロウだということが判明した。そしてハモニカ編は、ブラインド・ミシッシッピー・モリスだったのであった。

わたしと、モリスは少なからず縁がある。と言っても会ったことがあるわけでもないし、モリスがわたしのことを知っているわけでもない。
実は、ブルース・マーケット誌第2号のアルバム・レビューを依頼されたわたしは、ギター・スリム・ジュニアのアルバムなどと共に、モリスが1997年に発表したIcehouse Recordsからの1stアルバム「You Know I Like That」を取り上げていたのだった。残念ながらスペースの都合で割愛されてしまったが、当時から彼には注目していたのだ。

今回、モリスの昔からの友人であるジェリー・ワデル氏と、モリス・バンドのギターリストでプロデューサーのブラッド・ウェブ氏の協力で、モリスにインタビューすることが出来た。
それをもとに、彼の生い立ちとディスク・ガイドを掲載していきたい。


ブラインド・ミシシッピー・モリス、本名モリス・カミングスは、1955年4月6日にミシシッピー州クラークスディルに生まれる。
叔父叔母にあたるロバートとメアリー・ディグス夫妻は、チャットマン一家の生き残りのサム・チャットマンと一緒に演奏をしていたし、ウィリー・ディクソンはいとこに当たるという恵まれた音楽環境の中で育ったモリスは、4歳の頃にはメアリーの指導を受けながらハモニカをプレイし始めていたという。
また、モリスの家の隣にはハウリン・ウルフのお母さんが住んでいた。たまに帰ってくるウルフは、キャンディを子供達に買い与えてくれて、モリスもそれを楽しみにしていたそうだ。
何という環境なんだろう!

当時の彼の一番のお気に入りはリトル・ウォルターだったが、クラークスディルではビッグ・ジャック・ジョンソンとフランク・フロスト、サニー・ボーイ・ウィリアムソン、ジェームス・コットンなどの演奏を間近で見ていたという。

そんなモリスがメンフィスに出てきたのは、1980年代の始めのことだ。彼は、メアリーの家に住みつき、ビール・ストリートやW.C. ハンディ・パークでストリート・ミュージシャンを始めたが、1987年頃から始まったビール・ストリート「浄化」作戦により演奏の場を奪われ、教会での演奏が唯一のチャンスとなってしまった。モリス受難の時代である。

そんな彼がブラッド・ウェブと出会ったのは、1994年頃のことであったという。余談になるが、ウェブはウイリー・フォスターの「Live At Airport Grocery」(Mempho Records)をプロデュースした人としても有名である。
意気投合したモリスとウェブはリハーサルを重ね、1995年にアルバム1枚分の録音を完成させた。それが1997年発売の1stアルバム「You Know I Like That」である。

その後、1998、99年と立て続けにアルバムを発表。地元メンフィスでの活動を中心に、各地のフェスティバルへと活動の場を拡げている。
前述のように、2000年には日本のTVコマーシャルにフューチャーされ、本国アメリカでは、2001年のW.C. ハンディ賞の"Regional Blues Harmonica player of the year"を受賞した。

今年46歳とは、ビリー・ブランチより4歳も若い。これからの活躍が期待される「若手」ブルース・ハーピスト、それがブラインド・ミシシッピー・モリスである。

(2001年6月30日記)
Special Thanks to Jerry Waddel and Brad Webb.


Blind Mississippi Morris
"You Know I Like That"

(Icehouse P2 53553)

ウェブのプロデュースによる1st。
ロックっぽい音作りだが、高いキーのハモニカがそのサウンドにマッチしている。
15曲中13曲がオリジナルで、バラエティに富んだ完成度の高いアルバムだ。

The Pocket Rockets
featuring
Blind Mississippi Morris
"Bad To Worse"

(Boogie Barbeque Music No#)

ウェブのバンド、ポケット・ロケッツにモリスをフューチャーした形だが、基本的には前作の作りを踏襲している。こちらも1曲を除き全てオリジナル。
唯一のカヴァーは、ウイリー・ディクソン作でウルフが歌った"Built For Comfort"。

Blind Mississippi Morris
and
Brad Webb
"Back Porch Blues"

(Boogie Barbeque Music No#)

ロバート・ナイトホーク(あの伝説のスライド弾きとは別人)がピアノで3曲、デヴィット・フォウラーがドラムで1曲に参加しているが、後は全てモリスとウェブのみで録音している。ウェブは、ギター/ベース/ドラムスと大活躍。地味だが滋味溢れる好作。

Brad and Guy
"Alley Cats

(Skydodg Productions No#)

ウェブとガイ・ヴェナベルによる自主制作盤。モリスは2曲でゲスト参加している。
ブルースのアルバムと言うより、カントリーやサザン・ロックが中心の、完全な趣味のアルバム。
モリスは、控えめな演奏ながら好サポート。

Original Motion Pictursound Track
"Poor & Hungry"

(Icehouse IHR 9440)

メンフィスに実存する、Poor & Hungry Cafeを舞台とした映画のサウンドトラック。
メンフィスの、ブルース/ロック/フォークソングがごちゃ混ぜとなった音楽シーンを象徴するような選曲だ。
モリスは2曲に参加しているが、その内の1曲は"You Know I Like That"に収録されているもの。


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