「60年代頭のシカゴ・ブルースは、元気一杯だったぜ。ハモニカの値段から税金まで今よりは、ずっと安かったしよお、週末はいつも満員の客でブルースクラブは大賑わいだった。オレは、ジムをその頃から知ってるよ。66年頃から例の戦争が始まっただろ?人々は日々の憂さを忘れる為にもっと軽快で希望に満ちた歌に人気が出始めてよお...」
隣の酔っ払いが、話しを続けそうなので、こういう時は、忙しい振りをして他のテーブルに移りましょう(笑)。
60年代のホワイト・ブルースでハモニカ・プレイヤーといえば、ご存知ポール・バターフィールドさんですね。では、他にはいなかったのでしょうか?そうではありません。彼が一番有名になっただけです。
今回紹介するジム・リバン(注1)を知っている人が、日本で一体どれだけいるでしょうか?僕はなぜかCDを持っていました。50歳半ばでやっとソロ・アルバムなのですから...。
もう、30年以上は現役なのに。
この尊敬出来るミルウォーキー在住のハモニカ・プレイヤーのジム・リバンは、ポールと同様、当時まだ黒人街でしか聴けなかったブルースを身に付けるために、ゲットーの奥深くに通い詰めた口です。しかしポール達は、シカゴ大学の学生さんで、きっと、頭も良かっただろうし、両親の援助にも恵まれたでしょうし、音楽でも稀に見る才能を発揮するチャンスにも恵まれました。
それに対しジムさんは、ミルウォーキーに住み続け「生活」というシガラミを引き摺りながらも自分のバンド続けて来たわけです。70年代には、このミッド・ウエスト・エリアでもかなり有名なプレイヤーの一人でもあったようです。
彼のライブを聴くのは、今夜が初めてです。この年代の白人ハモニカ・プレイヤーは、僕の経験からすると殆どが、ジェームス・コットン、Jr.ウェルズの影響が濃く、リトル&ビッグ・ウォルターは、当たり前という感じです。どれがいいのかは、好みでしかありませんが。
ハモニカが中心のバンドは、50年代あたりの伝統的なシカゴ・サウンドになることが多いようです。現在、彼らのような伝統的なサウンドを追求するバンドを語る場合、黒人さんはほとんど無視してよいでしょう。
バンドは4ピース。ギターにペリー・ウェバー、ベースにデイブ・カシック、ドラムに自分の息子のマット・リバンというメンバー構成です。CDでは、リトル・ウォルターみたいな感じの曲が印象的でしたが、ライブでは、Jr.ウェルズ、コットンを聴かせてくれました。
ライブは、ぼくの思っていた通りの雰囲気でした。見せ場は、ロング・ロング・トーン。これは本当に長い!2分以上はやっていたんじゃないでしょうか。きっと、何か特殊な呼吸法でやっているのでしょう。こんなに長いのは、ぼくも初めて聴きました。ハモニカの場合は吹くのではなく吸うのですが。
ビリーさんも、昔は1分以上やっていましたが、最近は、30秒位でしょうか。自分でも歳だと言い訳していましたが。(笑)
アンプは60年代のツイン・リバーブ。このアンプをステージで使うのは、ハモニカでは珍しいです。マイクもシュアー58(かな?)とアスタティックを両方のチャンネルに別々に付けていて、プレイ中や曲によって使い分けしていました。
歌もいい感じです。何曲かはオリジナルでした。彼は、作曲家としての方が知名度があり、ジョニー・ウインターやロニー・ブルックスら数多くのプレイヤーに曲を提供しています。
ステージが終わってから、少し話をしました。
「ビリー・ブランチの事は、良く覚えているよ。オレが当時クラブで演奏していた時、まだ12〜13才だったんじゃないかな?(注2)彼は、歳を誤魔化してよくオレのところへ来ていたもんだ(笑)。もちろん、いつもハモニカを吹きにね(笑)」「オレはいつでも若いハモニカプレイヤーの演奏を聴きたいからね。新しい物を自分の中に取り入れたいからさ」
次回、彼がシカゴでプレイする時は、ぼくもハモニカを持参する事にしましょう。
江戸川スリムのお節介注釈
(注1)Jim Liban
詳しいバイオは不明だが、わびちゃんの記事にあったように1960年代からブルース・ハーモニカをプレイしている古参ハーピスト。地元ミルウォーキーのブルース・シーンではかなりの著名人であるようだ。
初録音は、"A.B. Skhy"名義のアルバム(1969年)。1970年代から1980年代前半にかけて"Short
Stuff"のリーダーとして15年間も活動しているように、ロック・サークルでの活躍が多かったようである。
1980年代後半にはビル・フリンらと共に"Jim Liban and the Futuramics"で活動。"Leavin'
in the Morning" (Easy Baby EB-100CD)では、2曲のみだが共演している。
私が持っている彼のCDは、1990年代に入ってからの"The Jim Liban Blues Combo"名義の2枚のみだが、50〜60年代のシカゴの香りが漂ってくる佳作。ハープの巧さももちろんだが、歌や曲のアレンジも素晴らしい。「こんなん好きで、30年やってますねん」って気持ちがストレートに伝わってくる。
なお、"Live at Romie's"は、ビルボードのトップ10に入ったそうである。
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A.B. Skhy
"A.B. Skhy"
(One Way CD 30011) |
Lonnie Brooks
"Waund Up Tight"
(Alligator ALCD-4751) |
Violent Femmes
"Blind Leading The Naked"
(Slash CD 2-25340) |
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Webb Wilder
"It Came From Nashville"
(Watermelon Records WM1018) |
The Jim Liban Blues Combo
"Live At Romie's"
(Romie Records LIB-1001) |
The Jim Liban Blues Combo
"Blues For Shut-ins"
(Romie Records LIB-1001) |
"The Jim Liban Blues Combo"のCD番号が同一となっていますが、誤植ではありません。何故だかわかりませんが、オリジナルがそうなっています。
(注2)12歳のビリー??
ビリー・ブランチがシカゴでハープを始めたのはイリノイ大学の学生時代のこと。12歳の時は、L.A.に住んでいたのでジムの勘違いと思われる。
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