Horton's Briefcase

Horton's Briefcase
CeePeeVee Records (CPVCD 401)

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別に統計を取っているわけではないが、どうやら私の愛聴盤となるアルバムは「先人達への敬意と愛情が込められている」かどうかが判定基準のひとつになっているようだ。
これは私が(下手ではあるが)プレイヤーであると言うことも左右していると思う。フレーズやアレンジの端々に誰かの影響を嗅ぎつけると「おお!そう来たか!」とニヤリとさせられてしまう。要するに、ブルースを追いかける立場からシンパシーを感じてしまうのだ。

北欧の国スウェーデンには、この様な「私の心をくすぐる」バンドがゴロゴロといるらしい。ハーピストの湯口 "WABI" 誠司氏によると、彼の地で1950年代のシカゴ・ブルースを演奏すると大受けだそうだ。
以前、Harmonica Henry & The Blues RockersというバンドのCDを買ってビックリしたことがある。ハモニカはもちろん、ギターやリズム隊までもがリトル・ウォルターのサウンドにそっくりなのだ。ただ上っ面をなぞるだけのコピー・バンドなら聴いても仕方がない。しかし彼らのサウンドには、確かな「愛情」が感じられた。

今回紹介する"Horton's Briefcase"は、タイトルからも分かるようにウォルター・ホートンに対するトリビュート・アルバムである。スウェーデンの名うてのハーピストが集合し、ホートンゆかりの曲を収録したものである。
"...not far from Maxwell Street"という副題にも泣かされる(笑わされる?)が、いやー、この愛情の注ぎ方は半端じゃない。そのハモニカの音色からフレーズ、そして選曲のセンスにまで愛情に満ちあふれている。


Sven Zetterberg
・Litttle Boy Blue
・Southern Women
・Hard Harted Woman

Sven Zetterbergという人は、ギターリストとして有名な人らしい。私は未聴だが、彼のアルバムは、浜松のレコード店apple Jamでもベストセラーだという。そんな彼だが、ハモニカもなかなかのものだ。いや、なかなかどころか、ハッキリ言ってとっても巧い。トーンからフレーズ、そしてタイム感まで、かなりいいところまでホートンに近づいているのではないかと思う。
だいたい、ホートンのプレイは簡単なようでメチャクチャ難しい。彼の間の取り方は一夜漬けではとても出来ないシロモノなのだ。それをここまで「真似る」ことが出来るのは相当なマニアに違いない。
また、"Litttle Boy Blue"や"Hard Harted Woman"といった代表曲に混じって、トミー・ブラウンがステイツに残した"Southern Women"などという曲が入っているのが何とも憎い。原曲はアーバナイズされたサウンドにホートンのハモニカが絡む名曲である("Big Walter Horton and Alfred "Blues King" Harris-Harmonoca Blues King"(P-VINE PCD-5607)で聴ける)。

Jan Sjostrom
・Louise, Louise
・I'm in The Mood
・Easy

お次は、先ほど紹介したHarmonica HenryことJan Sjostromの登場だ。ギターとの弾き語り"Louise, Louise"は、同じスウェーデンのJeffersonから発売された"I BluesKvarter Vol.1"(Jefferson Records SBACD 12653/4)の中で、ホートンとロバート・ナイト・ホークがプレイしていたものからアイディアをいただいたのであろう(余談になるが、間もなくP-VINEから国内発売となるアリゲーター原盤の"Big Walter Horton with Carey Bell"収録の"Christine"は、女性の名前が違うだけで全く同内容の曲である)。続く"I'm in The Mood"も"I BluesKvarter Vol.1"に収録されていたもの。前者はテンポを落としよりムーディーに、後者はバンド形式にしてスウィンギーに仕上げている。
そして、"Easy"。SunにJimmy and Walter名義で吹き込んだハモニカ・インストの傑作である。JSPからのライブ・アルバム"Little Boy Blue"(JSP CD 2152)では"It's Not Easy"と表記されているほど簡単そうで難しい曲である。ホートンの「風圧」にはかなわないもののかなりの善戦。このJanもSven同様、かなりの好き者であるに違いない。

Thomas Grahn
・Everybody's Fishin'
・If it ain't Me
・La Cucuracha

"Fine Cuts"(Blind Pig BP-70678)の冒頭を飾った"Everybody's Fishin'"をギターとの弾き語りで始めたThomas Grahn。この人のホートン度も相当高い。ボーカルもかなり意識しているようだし、トーンやタイム感、そしてアドリブでの掛け声の出し方までしっかりコピーしている。
続く"If it ain't Me"は、"Johnny Shines with Big Walter Horton"(P-VINE PCD-5586)に収録されていた曲だが、オリジナルであるジミー・ロジャースのバージョンを参考にしているようである。もちろんそこでもホートンはハモニカを吹いている。また前述の"Big Walter Horton with Carey Bell"に入っている"That Ain't It"もタイトル違いだが同じ曲だ。オリジナルよりもテンポをあげたシャッフルが気持ちいい。
"La Cucuracha"は、ご存じホートンの十八番のメキシコ民謡だが、これはちょっと分が悪いか。難しい曲に挑戦する意欲は買うが、ちょっと役不足の感は否めない。まあ、ご愛敬ということで。
ところで、クレジットにUnknown, mrcs.と書いてあるが、これって新録でしょ?

Greger Andersson
・Have a Good Time
・Card Game
・Cotton Patch Hot Foot

ホートンの代表曲のひとつである"Have a Good Time"に果敢に挑戦するGreger Andersson。ハーピストとして聴くと面白いが、ホートン度は薄いなあ。まあ、聴き方の好みの問題だけど、上記3人がホートンをよく研究していただけあって、アルバム・コンセプトとしてどうだろうか。"Card Game"もトミー・ブラウンの曲だが何か違う。誰かの歌い方に似てるなあと思っていたら、(声質は全く違うが)キム・ウィルソンがちょっと入っているようだ。言われてみればサウンドも全体的に西海岸ハモニカ・ブルース風だ。

Stefan Dafgard
・West Winds are Browing
・Fumblin' Around
・We All Got to Go, Sometime

ここまで来ると、ホートンのかけらも感じられない。Greger Andersson同様、このStefan Dafgardも1960年代生まれの「若手」だということも関係しているのだろうか。
Sunへの"West Winds are Browing"、"Johnny Young and Big Walter-Chicago Blues"(Arhoolie ARHCD-325)に収録されてたルンバ調の"Fumblin' Around"。Joe Hill Louis-The Be-Bob Boy"(Bear Family BCD 15524)収録の"We All Got to Go, Sometime"共に、完全に自分流になっている。まあ、ここまで潔くやってくれると却って気持ちがいい。

Sture Elldin
・Honey Dripper
・Sneakin' And Hidin'
・Back Home to Mama

最後はベテランのSture Elldin。私の力不足でルーズベルト・サイクスの"Honey Dripper"をホートンがどのアルバムで演奏しているのか調べきれなかったが、出てきたサウンドはまさに50年代メンフィス!トレインピースのタフなインストだ。
"Sneakin' And Hidin'"は、前述の"Johnny Shines with Big Walter Horton"に収録されていたもの。これはよく雰囲気が出ている。
そして最後が、ステイツ録音で"Hard Hearted Woman"のB面だった"Back Home to Mama"("Big Walter Horton and Alfred "Blues King" Harris-Harmonoca Blues King"収録)。オリジナルのホートンのプレイは、「赤ん坊が母親を求めて泣く声を模した」と言われているが、こちらはどう聴こえるだろうか。


このアルバムのライナー・ノートを書いたThomas Grahn氏によると、1964年にラジオ番組用として録音され、後に「I BluesKvarter vol.1」として発表された音源を録音したとき、プロデューサーの Olle Helander 氏は「こんなに素晴らしいハーピスト(ホートンのこと)をスウェーデンに紹介することによって、彼に興味を持ったり、ブルース・ハーモニカを始める人が現れると嬉しい」と意識しながら録音をしたという。当時は、リトル・ウォルターでさえスウェーデンではマイナーな存在だったと言うことだ。
Olle氏が蒔いた種子が、このアルバムに登場するSven ZetterbergやJan Sjostrom、Thomas Grahn、Sture Elldinといった1950年前後に生まれたハーピスト達に影響を与えたことは間違いないだろう。1960年代に生まれた、Greger AnderssonとStefan Dafgardのホートン度が低いことが、その事実を裏付けていると思う。
1960年代から1970年代に掛けて、ホートンは都合3回スウェーデンを訪れているという。あこがれのハーピストを前にして、食い入るように見つめるスウェーデンのハーピスト達の姿が目に浮かぶようだ。

ライナーの結びに、「このアルバムを聴いて、素晴らしいハーピストであるウォルター・ホートンに、再びブルース・ファンが注目するようになったら嬉しい」という趣旨のことが書かれている。
このアルバムを、「単なるコピー集」と切り捨てることは簡単だ。ホートンの表現力の深さは尋常ではない。単にテクニックやフィーリングの面で言えば、本物に敵うわけはないし、彼のサウンドを求めるならば、ホートンのアルバムを聴けばいい。
しかしこのアルバムは、スウェーデンのハーピスト達による「(アイドルであり、先生でもあった)ホートンに対するご恩返し」のアルバムなのである。一人一人のハーピスト達の深い愛情と、嬉々としてホートンの曲をプレイしている姿に心打たれるとても清々しいアルバムだ。

追記
ブックレットやジャケットに、私が見たことがない写真が多数掲載されている。また、ホートンの本名がディブ・ウォルター・ホートンだということを、このアルバムのライナーノートで初めて知った。

2000年作品


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(Jefferson SBACD 12653/4)

Johnny Young and Big Walter
Chicago Blues

(Arhoolie ARHCD-325)

Johnny Shines
with Big Walter Horton

(P-VINE PCD-5586)

Big Walter Horton
with Carey Bell

(Alligator ALCD 4702)

Fine Cuts
(Blind Pig BP-70678)


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