大雪に見舞われた昨年のフェスに比べ、11周年目を迎えた今年のホープフェスは、1月にしては比較的暖かい日に恵ました。フェスティバルの会場は、昨年と同じリビエラシアターです。
今年の主なラインナップは、昨年からの引き続き組であるボー・ディドリー、チャック・ベリー、ビリー・ブランチの他、新たにシャメイカ・コープランド(注1)、ドクタージョン、チャーリー・マッセルホワイト、そしてキャッシュ・マッコール(注2)らが加わりました。
今回、僕はビリー・ブランチのバンド、サンズ・オブ・ブルースでギターを弾く丸山実さんが出演するという事もあって、関係者専用のドアから入れてもらう機会に恵まれました。例年のように、ボー・ディドリーのバックバンドはサンズ・オブ・ブルースが担当するので、ボーさんと会う機会にも恵まれました。大物にもかかわらず、とても紳士的でやさしそうな方でした。このイベント前日には、サンズ・オブ・ブルースのメンバーとボー・ディドリーが、このフェスの宣伝のため、朝のテレビニュースに出演したそうです。番組の中ではたった3分位のシーンであったにもかかわらず、早朝明け方から3時間も収録場所のチェス・スタジオの前で待たされた、と丸山さんはボヤいていました。(笑)
そんなわけで、僕が7PM過ぎに会場に着いた時には、すでにトップバッターのシャメイカのバンドが演奏していました。彼女はジョニー・コープランドの娘さんということですが、B-3にギター、ベース、ドラムという編成のバンドで、かなりゴスペルっぽいサウンドを披露していました。これから楽しみな女性シンガーの一人だと思います。
シャメイカのステージのあとに行われたオークションでは、出演者のサイン入りのギターや、プロスポーツ選手のジャージなど、音楽に限らず色々な物が出品されていました。この日に一番高値がついたのは、エリック・クラプトンのサイン入りストラトキャスターで4000ドルでした。次にマイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソン、ラリー・バードという、NBAを代表するスーパースターのサイン入りジャージのセットが3500ドルで落とされました。これを買った人をフェス終了後に見ましたが、3つのジャージが大きな額縁に入っているために車に積むことができず、途方に暮れていました。(笑)
次に登場したのは、ドクター・ジョンのピアノに、チャーリー・マッセルホワイトのハープ、ギターにキャッシュ・マッコールを迎えたスーパーバンド(?)で、ドクター・ジョン・バンドのB-3とベースを担当する女性2人に、ドラムはニューヨークを拠点に活動している日本人のシマダ・ヨシさんという編成でした。シマダさんは普段、ボー・ディドリー・バンドを基本にして、ドクター・ジョンなど色々な人達のバックでもドラムを叩いてるそうです。
演奏の方はメインの3人が交互に持ち歌をやるという感じで進んでいきました。まずリードを取ったのはチャーリー・マッセルホワイト。彼を見るのは始めてでしたが、なんといってもハープを持つしぐさがかっこいい。時に、右手の指2本を立ててブロウする姿は年季が入っていてサマになっていました。のども渋みがかかっていてイイ感じでした。
次にボーカルを取ったのはキャッシュ・マコール。この人のことはよく知らないのですが、見た感じ若き日のハウリン・ウルフのような風貌でした。スタイル的にはモダンブルースの人で、複音の組み立てによるギターソロを、これでもかって感じで弾いていました。ただ余りにやりすぎるので聴いてて疲れました(笑)。
続いて、グレーのスーツにピンクのシャツ、そして粋な帽子というカッコイイ着こなしのジョン先生の出番となりました。コロコロとローリングするピアノをかき鳴らし、まどろっこい歌声でブルースを歌い始める頃には観客もかなり盛り上がったため、恐らく演奏する予定のなかった十八番の「ライトプレース、ロングタイム」も披露していました。この日の司会にあたっていたウィリー・ディクソンの愛娘、シェリーさんもステージに飛び出し「ワング・ダング・ドゥーダル」を歌うなど、会場は大ブルース大会になりました。歌も結構いけるシェリーさんは、父親とあまりにそっくりな顔をしていて、ビックリしました。(笑)
昨年のホープフェスが最後のステージとなったステイプル・シンガーズのポップ・ステイプルを偲んで、急遽出演したオーティス・クレイが、ステイプルの冥福を祈りゴスペルを数曲捧げたのに続き、チャック・ベリーの登場になりました。多分、彼はステージ衣装を一つしか持っていないのでしょう。昨年と全く同じでした。バンドはドラムにドクター・ジョンのステージで叩いたシマダさん、ピアノにウィリー・ディクソンの息子(名前忘れました)(注3)、そして、チャックを良く知ると思われるベースプレーヤー(彼がバンドを仕切っていました)といったメンバーで、昨年に比べてかなりタイトでした。ウィリー・ディクソンの才能は、子供達にも受け継がれているらしく、ピアノを弾いた彼も、ジョニー・ジョンソンを思わせる好サポートをしていました。チャック自身も調子が良く、ミストーンも吹き飛ばす勢いで、豪快な太いギターの音は本当に気持ちよかったです。途中、チューニングが狂って曲が中断するということもありましたが、彼はまだまだいけると嬉しくなりました。
ドクタージョンのステージがかなり押したため、トリであるボーの演奏が始まったのは、11時半くらいでした。先ず、ビリー・ブランチ・バンドが軽くウォーミングアップといった感じで「スクラッチ・イン・マイ・バック」など数曲演奏し、バンドのグルーブが上がったところに、ボーがあの四角いターボ・ギターをもって現れました。このギターにはピックアップの切り替えスイッチの他に8つのボタンがついてました。何の為のスイッチだろうと思って、後で丸山さんに聞いたところ、色々なエフェクトのボタンらしいということでした。昔からトレモロを使って、他と一線を画したサウンドを作ってきた人だけに、エフェクターにはかなりの思い入れがあるみたいです。しかし、そんなギターを作らしてしまうなんて流石。(笑)
ビリー・ブランチ・バンドがバックということもあって、チェスのレコードで聞けるようなシンプルなサウンドから、パワーアップしたモダンなサウンドに生まれ変わっていました。ボーさんも、かなりラップを意識したような言葉遊び的な要素を加え、常に前進しようとする彼の姿勢が良く伝わってきました。彼はロックンロールのイメージの人だけど、彼は実際、かなりブルース、R&Bが基本の人だというのが感想です。ブルースを歌う彼は良かったし、いわゆるボーディドリービートというのは2曲しかやりませんでした。個人的にはあのビートをもっと聞きたかったのですが・・・。
ボーさんのギターの音はクリーンでコーラスのかかったような音だったので、バックの音に飲み込まれてしまいがちだったのが残念でした。ボーさんも途中で、自分の音がよく聞こえないなどといっていましたが、今度は大音量に対抗すべきエフェクターの開発を進めなくてはならないかも?。(笑)
江戸川スリムのお節介注釈
(注1) Shemekia Copeland
アリゲーターからの第2作が、グラミー賞のコンテンポラリー・ブルース・アルバム部門にノミネートされ、乗りに乗っているシンガー。父親はご存知ジョニー・コープランドだ。
1979年生まれと言うから、今年で22歳。10代の頃から父親と共にステージに立ち、18歳でロニー・シールズのアルバムで客演。19歳でアリゲーターからソロ・デビューを果たし、昨年2作目が発売された。
余談になるが、フランスでソロ・デビュー前に録音した(1曲のみ)ものが有るようで、apple
Jamに近日入荷という情報もある。
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Lonnie Shields
Blues Is On Fire
(JSP CD-298) |
Shemekia Copeland
Turn The Heat Up
(Alligator ALCD-4857) |
Shemekia Copeland
Wicked
(Alligator ALCD-4875) |
(注2)Cash McCall
1960年代には、シカゴ・ソウル・シーンの裏方として大活躍していた、シンガー/ギタリスト/ソングライター/プロデューサー。オーティス・クレイらに曲を提供する傍ら、プロデューサーとしても多くの作品を手がけている。また、チェスのセッション・ギタリストとしても活躍していた。
1973年にポーラから、1983年にドイツのL+R(現在はEVIDENCEから再発)から、1988年にはストーン・レコードからソロ・アルバムを出している。
ウイリー・ディクソンとはチェス時代からの付き合いで、1988年のアルバム「Hidden Charms」では、彼のギターが全面的にフューチャーされている。最近では、オーティス・クレイの「This
Time Around」に客演し、元気な姿を見せていた。
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Cash McCall
No More Doggin'
(EVIDENCE ECD-26065) |
Cash McCall
Chash Up Front
(Stone Records STN1945-2) |
Otis Clay
This Time Around
(Bullseye CD BB 9590) |
(注3)ウィリー・ディクソンの息子
ウィリーの息子のミュージシャンは、ベースのフレディが比較的有名だが、アーサー "ブッチ" ディクソンはピアノを弾く。この日のピアニストと同一人物かは未確認だが、ほぼ間違いないだろう。
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