2010年2月4日(木曜日) 三ヶ月毎の歯のクリーニングで見付かった(自覚症状なし)小さな虫歯の治療。 昔から知る関西出身のT医師がニコニコ顔で咎(とが)めた。「また、歯ぁ磨かんと寝たんやろ」。口を開けたままでは小さな声で「はぇ」と応えるしかない。通常のクリーニングを大先生が担当することはなく、久し振りにオレを診ているからか軽口が弾む。 「何や、ちゃんと喋れへんのかいな。みんな上手に話さはるで、フガフガって」 子供の頃の歯の治療は「キィーン」という音だけで痛みが増した。以前何かで読んだが、日本製の接着剤の目覚ましい発展で、詰め物のために歯を削る穴が昔に比べ小さく済むらしい。大先生の技術か、昨今の科学の進歩か、歯にドリルの先端が触れている感覚以外には何も感じなかった。 毎月$900近く支払っている民間の健康保険も、年に$500の"Deductible"(保険会社側の控除)を越えない限りほとんど見返りはなし。だから治療費$175は自腹に等しい。世界一の最先端医療の国は、保険制度では後進国でもある。 2010年2月8日(月曜日) 大将がいないアーティスの2回目。ビリーは二週間の単身出張中。行き先は然るお方の「プライベート・アイランド」。いや、バケーションではなく、あくまでプロモーションらしい。 ベースのニックが、 "Big City Rhythm & Blues" という雑誌を何冊も持って自慢げに見せる。おお、表紙がニックにボブにプーキーたち。なになに、ウイリー・ディクソンの門弟特集ぅ?ほぉ、本文ではそれぞれに写真入りで記事がでてる。でも、みんな単品のカッコいい写真なのに、ニックだけビリーと一緒。して、そのキャプションは・・・ 「ボスであるビリーの話を聞くニック・チャールズ」 ううニック、オレはちょっと悲しい。 2010年2月9日(火曜日) 暗いベッドルームの縦型ブラインドを広げると、庭の常夜灯が部屋を仄かに照らしだした。しんしんと降り続く雪は、枝を張り巡らせた冬の樹々に真綿を粧(よそお)い、時おり誰かが払ったかのように舞う白煙が、疾風の肌に当たる痛みを思い出させた。 大きな窓を開けると、一気に冷気が押し寄せてくる。風呂上がりの火照った体に心地良いのは、あと数分だと知っていた。タバコに火を点け、缶コーヒーのプルトップを引く。ああ、休みで良かった。 昨日の夜から明朝まで大雪警報が出ていた。東海岸ほどではないが、シカゴも40センチほどの積雪が予想されている。 2010年2月11日(木曜日) 家人によると、それは携帯電話会社のテレビ・コマーシャルらしい。 エリック・クラプトンがフェンダー印の携帯を手にバディ・ガイとの演奏動画を観ていると、バディ・ガイ本人から電話が入るというものだ。観てみたいと思っていたが、テレビの前で偶然を期待するほど気長ではないので、"You Tube" で"Eric Clapton Cell" と検索したら簡単に探し出せた。 "T-Mobile"社 の "Fender Edition" ・・・ギターのネックを模してある。クラプトンがこちらへ示す携帯画面には、バディ・ガイの顔写真の下に電話番号が表示されるが、上3桁はフリー・コールのナンバーなので、もちろんバディ・ガイには繋がらない。*註1 全米で放映されているのだろうが、音楽愛好家のために特化した機種とはいえ、ブルース(音楽としてではなく象徴として*註2)が、この二人が、携帯電話の市場にいかほどの影響力を持っているのか。というか、フェンダーとタイアップとはいえ、限定版にこれだけ金をつぎ込むかぁ。広告代理店はマーケッティング・リサーチをしたはずだし、クライアントもそれを受け入れてテレビで流している。 以前、B.B.キングは血糖値を計る器具のCMに出演していたし、古くは80年代末にリトル・リチャードとヴァレリー・ウェリントンが、Gパンのリーバイス501で共演した。自分の業界の、少しでも知っている人たちが全国網に掛かるのは嬉しいが、熱狂的なファンの関係者の誰かが、無理矢理スポットに押し入れたのだろうと勘ぐってしまう。 それでも時おりの特異な人選が、ブルース界を賑やかにする。 *註1)実際に掛けると「彼らは今ここに居ません」と応答するらしい 2010年2月13日(土曜日) 木・金・土とローザス三連チャン。搬出入もないので楽。 明日から二週間、SOBでサウス・カロライナへ出張してきます。 2010年2月27日(土曜日) 暖かだった(日中は20℃近い)サウス・カロライナでの"Blues in Schools"を終えて、午後オヘア空港に到着。ウチで仮眠してから、SP20sの仕事で郊外のネイパービルへ。 トランペット(http://www.youtube.com/watch?v=vVwmUyiHUQs&feature= あれっアリヨ、ギター弾くの?とバンドのみんなの好奇の眼差しが集まる中、ほれ、ロック・ウッドのフレーズ、ロバ・ジョのフレーズ、ラッシュの、Tボーンのと目先を変え、すっかりダグのお株を奪う。ボロが出ないうちに3曲ほどで止めたが、ダグにギターを返すとき「今度はサックスを持ってくるから、一緒に演ろう」とうそぶくと、真に受けた彼は顔を引きつらせてしまった。 ああ、あっ、そんな低次元で意地を張って・・・ライブ演奏のない田舎の高校で二週間も燻っていたのが、よっぽど欲求不満だったのは自覚しているけれども。
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