傀儡 (くぐつ) のよしなしごと 53 [ 2007年3月 ]


Artis's Lounge
Photo by Gilles R. Aniorte

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2007年3月1日(木曜日)

ロザではパーティが入っていて、8時過ぎ出勤となる。昼間に歯医者で虫歯の治療をしていたので、睡眠時間が少なくボーとしている。

スペインから遊びに来たという客が話しかけてきた。

『あなたアリヨさんでしょ?この夏ビリーとヨーロッパに来ますね。バルセロナでもあなたの演奏が聴けることを楽しみにしてますよ』
『えっ、わたし欧州ツアーなんか何も聞いてませんが』
『いえ、あちらのブルース・フェスのポスターで名前を見ました』
『うわぁ、そりゃ楽しみです』

ウチに戻るとマネージャーからスケジュールの知らせのメールが入っていた。

月・水曜日のレギュラー以外の主な仕事に加え、「6月メキシコ、スイス、7月スペイン、イタリア、フランス他」の日程が見えた。そして但し書きがある。

『尚、海外ツアーはすべてビリーのみのです』

ご主人様、いってらっしゃいませ。


2007年3月10日(土曜日)

週末だが何も仕事がなかったので、ビリーの新居祝いに家族で訪問する。でも本当は、今後のバンド運営について、真剣な意見交換をしたいというビリーの要請によるものだった。

サウスサイドの閑静な住宅街の瀟酒な二階屋は、中へ入ると意外に広く感じる。ベースメント(半地下)がフルサイズなので、ここでバンドのリハーサルも出来ると嬉しそうに言う。実際、ハーピストには不要な各種アンプ類やキーボードまでが既に設置されていた。

『今年のシカゴ・ブルース・フェスティバル、我がサンズ・オブ・ブルースの結成30周年を記念して、金曜日の夜のメインステージの大トリを任されていることは知ってるな』
『へい』
『2時間だ。最近では俺にとって一番の大仕事になる』
『ほい』
『歴代のメンバー、カールやカルロス、ルリーなどもゲストに入る』
『ふむふむ』
『ホーンやコーラスも入れたい』
『ほぉ』
『だから、頼むぞ』
『はっ、何を?』
『段取りの手伝いにアレンジだ』
『・・・』
『そして新曲だ、5月にはスタジオへ入って5.6曲は録りたい』
『・・・』

『ところでミノル(丸山)後の新しいギタリストの件だが』
『それですがね、云々・・・』
『ほぉ、そりゃ云々・・・』
『でしょ?だからカクカク』
『なるほど、しかしシカジカ』

『それより・・・って時に、あの音なんとかならんのでしょうかね』
『うむ、それは俺も気になって、というよりも問題視してんだがパクパク』
『いや、あなたが大将でしょっ、管理責任はヘロヘロ』
『いや、俺がステージにおらん時はお前がリーダーだ』
『ご免蒙ります』

責任のなすり合いの末、有意義な会談を終えて辞去したが、今ブルースフェスを何かの転機にしたいというビリーの意気込みは感じられた。あっ、夏のビリー単独ツアーの恨み言を言うのを忘れた。でもとりあえずは、6月のブルースフェスがオレも楽しみである。