傀儡 (くぐつ) のよしなしごと 22 [ 2004年8月 ]


Millennium Park celebration, KOKO and Sharon Lewis.
Photo by Jennifer Wheeler, All rights Reserved.

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2004年8月2日(月曜日)

SOBが暇なこの2-3週間がチャンスと、思い切って休みを取り、車でぶらぶらと南下しようと思い立つ。予定は、今晩のアーティスが終わって来週のアーティスが始まるまで。

この金曜日にテキサスでロン・オースティン(テキサス在住・ギターとお唄)に誘われていたが、わずか1本しかない安いフェスティバルの演奏なので躊躇していた。でも一旦旅行を計画したら、最後にテキサスで旅費を稼げるので便乗すれば良いことに気付く。ロンにはひとりで車で行くからと告げ、関係各所に連絡する。

いつもは一つ返事で「次回は来ないんだね、オッケー」と快諾するロザのトニーが、「ええっ・・・そんなぁ・・・」と煮え切らない。「金曜日のルリー・べルはどーするのぉ」と困られる。へっ、聞いてへんやん・・・。SOBのマネージャーには「えっ、日曜日の仕事はどうするのぉ」と詰問される。そやし、聞いてへんやん・・・。そしてアーティスでは先週末デュオで仕事したデロリスが、「ええっ、今週もSOBは仕事ないって聞いてたから、土曜日はアリヨに頼もうと思っていたのに・・・」

みんな早よ言えよ・・・テンションの低い南部周りの出だしである。
8月3日午前3時45分 出発寸前に記す


2004年8月7日(土曜日)

昨日のテキサスの仕事を含め、1週間アメリカ南部を巡り、総走行距離2.458マイル、約4.000キロ。帰宅午前3時、マキシちゃんもオレも相当疲れた。明日は昼の1時に現場入り・・・。


2004年8月8日(日曜日)

- - - ミシシッピー州を中心とした米南部行(こう)以来、日常生活が怠惰になりきっている。日記をHPに掲載し始めて初めて更新する気になれなかった。実は、8日の日付けで久しぶりに書き始めている「今」は8/16なので、この間の遅れは管理人様には何の関係もなく、ひとえにオレの「心の揺れ」とご理解頂きたい - - -

もし今日の仕事が入っていなかったら、ましてや現場の入り時間が午後1時でなかったなら、もう少し余裕を持って帰途に着いたはずだ。金曜のテキサスでの仕事は夕方には終わり、そのまま東へ廻って深夜にはナッシュビルの繁華街で遊んでいた。  

ナッシュビルの音楽はカントリーしか連想していなかったが、「Music City」と謳われ、軒をひしめくダウンタウンのクラブ街では様々なジャンルのバンドが演奏していた。通りには人が溢れ、どの店も客が一杯で、クラブの点在するシカゴに比べ活気を直に感じることができる。

大昔に、揃いの派手なスーツをユニフォームにしたドゥーワップバンドのメンバーだったオレは、バディ・ホリーやエディ・コクランたちの物まねをしているロカビリーバンドを発見すると、一旦小躍りしてから店に飛び込んだ。フロアーでは初老の男女が青春時代に戻ってツイストやジルバを踊っている。映画「アメリカン・グラフィティ」の中で生きてきた人たちが踊っている。普段ブルース音楽に関わって生活していると、中に入り過ぎていて感じないことが多い。オレは誰ひとり知らぬ初めての街で、「アメリカ」を触れている感動に口元を緩めっぱなしでにやけていた。

翌日もこの地で遊んでいきたいところを、それでも帰路にある観光地に立ち寄りながらシカゴへ戻ると明け方に近い。マネージャーが『機材も全部持ってくるのよ』と言ったことをようやく思い出し、午前中には起きてキーボード・音響一式を車に運び込み、サウスサイドの湖に隣接するゴルフ場内のカルチャーセンターへと向かう。

駐車場で係員の指示に従い車を移動させ搬入口から機材を運び出すと、センター裏の広大な公園に特設された野外ステージまでが想像以上に遠い。どんな仕事か聞いていなかったが、そこここに「Heritage Fest 2004」と記されたTシャツを着たスタッフがうろついている。フェスティバル・・・?汗だくで機材を運び終えたオレに、ステージ・マネージャーと称する男が声を掛けてきた。

『君はウチのピアノも使うのかい?』

バカでかいステージではすでにジャズのフルバンドが演奏を始めていた。前面の巨大なスピーカーからは、$10万もするスティンウェイのフルコンサート用グランドピアノが鳴り響いている。

『えっ?機材は使わせてもらっていいんですか?』
『もちろん。大抵の物は揃っているよ』

ステージ脇の階段を何段か上って確認すると、2セットのドラムを含め、アンプ類など通常の大きなフェスティバルと変わりがない。表に廻って客席を見遣ると、数百人が芝生や持参した椅子に腰を下ろして演奏を楽しんでいた。

気が付くとベースのニックが、大きなベース用スピーカーの二つのユニットを大仰に載せたハンドトラックを持って、憮然とした表情で立っている。『機材は要るって言ってたよね』とぶつぶつ呟くと、一式を下げて搬入口への道を戻って行った。大体がピアニストで、それもフルコンサート用グランドピアノを弾かせてもらえれば文句のないオレが、しょうがなく買い求めた自前の「エレピ」などを使う必要なんてあろうはずもない。演奏が終われば直ぐに帰れるようニックに倣(なら)い、マキシのトランクへ機材を納めるため再び嫌な汗を流す。

駐車場の係員は、搬入後は車をさらに遠い場所にある一般駐車場へと移動させることを厳命していた。炎天下の芝の上をとろとろ戻る途中、ステージ横にある建物の裏口でビリーとばったり出会う。

『遅れてすまない。モーズのドラムを取りに行って遅くなったんだ』

少し離れたところでは、たくさんあるドラムセットの最後のケースを運んでゼーゼーしているモーズが、オレの方へ片手を挙げて力なく笑っていた。