傀儡 (くぐつ) のよしなしごと 7 [ 2003年5月 ]


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2003年5月24日

自宅から20マイル (約30km) 程西に離れた、イタリアンレストランのオシャレなバーで The Sons Of Blues のライブ。先月から月に数回、不定期で入るようになった。郊外はどのお店も広い駐車場があるので、搬出入に気を遣わなくて良いのが嬉しい。

回りに停められた車は高級車が多く、オーナーのセルジオさんの車は赤いフェラーリ。
我が愛車は赤いカローラ。離れたところにそっと停める。

次の月曜がメモリアルデーなので、世間は3連休となり客入りを心配したが、次第に一杯になっていった。ライブの合間に賄いのスパゲティ等を食しながら、昨年行ったイタリアツアーが思い出される。メンバーも、食べ物が一番印象に残ったと意見が一致した。何のことはない、ツアーは強行軍で観光の時間もなく、食べることが唯一の楽しみだった。

帰りの高速道路で賞金額が表示されているイリノイ・ロット (宝くじ) の看板を目にする。当選者が出ないと次の週に賞金が持ち越されるので、今週は $50ミリオン (60億円弱) と金額が膨らんでいる。当っても今の音楽生活を続けたいとぼんやり考えながら、あれが欲しいこれも買いたいとひとしきり楽しむ。間もなく一度もロットを買ったことがないのに気が付いたが、空想が楽しかったので少し得した気分になった。

昨日ある予定だった SOBs の仕事が、二日前にキャンセルされ来月に順延された。マネージャーからそれを知らされて直ぐ、入れ代わるように別のバンド (シャロン・ルイス) の仕事が入ったので今月の24本は変わらず。日本にいた時と違い、前日や当日にライブが入いったリ無くなったりするため、私生活の予定を立てにくいのが困る。

何十億も当れば仕事は選ぶことにしよう。それから付き人を雇おう。高級車も買うがフェラーリは選ばない。それから自宅に録音スタジオを作り、採算を考えないでレコーディングをしよう。食材は日本から空輸して、それから . . . . .

ホラッ 少し得をした。


2003年5月29日

今年もシカゴブルース界のお祭りがいよいよ始まった。
大小6カ所のステージの演奏が昼の12時から夜10時まで無料で楽しめる、シカゴ市主催、世界最大のブルース・フェスティバル。

フェスに出演する者に限らず、この週末にライブのあるミュージシャンは、皆どこか浮かれているように見えるのも仕方がない。4日間で80万人以上の人出が見込まれているフェスの期間中は、主立ったクラブが観光客で溢れかえる。フェスに出演した後、なじみのクラブへ顔を出し、世界中から来ているブルースファンから声を掛けられるのも楽しいだろう。

しかし今日から5日間で7本の仕事を考えると、ブルースフェスを楽しむというより、大過なく終わって欲しいと願うばかりなのだ。仕事が多いことをことさら吹聴したいのではない。遠来の異邦人が一番忙しいピアニストの一人と成ること自体、それだけこの業界の鍵盤奏者の不足を表しているに過ぎず、自分がそれに見合う程優秀だと思い上がるような歳でもない。

去年のブルースフェスはビリー・ブランチ & SOBで出演し、初日のしょっぱなの出番で1時半に終了した。せっかく甲子園に選抜されたのに、開会式直後の第一試合で負けた高校球児と気持ちを共有した思い出がある。今年は三日目にも演奏するし、人の演奏も聴きに行こうと楽しみにしていたが、夜の仕事がぱたぱたと入り込み、結局過密なスケジュールとなってしまった。

今日は昼の2時半から、テキサス出身の強力女性ボーカリスト、シャロン・ルイスと出演。演奏後はいろんな人に声を掛けらる。日本人客もちらほら見かけるが、中には去年 SOB でスイスにツアーした時に観たという人までいた。各々にゆっくり感想などを聞いてみたかったが、夜の仕事を考え家に戻って仮眠がしたいので焦ってしまい、話もそこそこに目を泳がせながら立ち去ることとなる。我が同胞・同僚ギタリストの丸山氏のトークどころではなかった。

広い会場の端にある出演者用駐車場への道中では、急ぎ足の行く手を遮るように知り合いのミュージシャン達が声を掛ける。

「観たよ。良かったよ」
うーっむ、こいつらにはハッタリでも今日の演奏の言い訳をせねば。
「ホント?でもステージでは自分の音が聴こえなくて往生したよ」
自分が自覚する欠点のひとつでもある『弾き過ぎ』があったのではと懸念していた。
カッコ良く演奏できていれば問題はないが、実際自分のモニターの音が上がらず、ミストーンがあっても聴こえ難い状況で、そういう時は却って弾き過ぎるきらいがある。
「いや、良かったよ。ホント」
それならいいか、と思いながらも調子に乗ってしまった。
「ハモンドのB-3(オルガンの最高峰)の音が出なくて音響の人間はあたふたするし、開演は迫るし、結局ローランド (電子ピアノ) のサウンドチェックはできないはで始まったんだけど . . . . うだうだ . . . . 演奏中もずっと後ろで誰かがハモンドをチェックしてて . . . . うだうだ . . . . で終演10分前になって”ハモンド直りました”って言われてもなぁ」
「っだったんだぁ、あははは . . . 」
「で、うだうだ . . . . で、うだうだ . . . . 」
「へぇ、うだうだ . . . . で、うだうだ . . . . 」
「あははは . . . . で、うだうだ . . . . 」

あれ?こんなところで足を止めている場合ではない。
別れの挨拶もそこそこに、もつれる足をごまかしながら、ぴょんぴょん飛び跳ねるように愛車へと向かった。

ようやく家に戻りベッドに潜り込むと間もなく、微睡みの幸せを破るお馴染みの音。
受話器を取りわざと嗄れた声で応答する。

「アリヨ、テレビ観たよ!」
同僚ピアニストの嬉しそうな響き。
「チャンネル5の夕方のニュース、アリヨのソロが大写し。良かったよ!」
そういやテレビクルーが来ていた。でも所詮バックミュージシャン、ちらっと映っている程度なら局の人間に、どのテレビ局?何時から?と聞くのは浅ましいかと放っておいた。
「どうせちらっとでしょ?」
「いやぁー、15秒以上アップで出てたよ、音も良かったし」
「 . . . . 」

その夜、寝不足で出かけたロザでは、少なくとも5人以上の人達から「テレビ観たよ」と言われた。

夕方のニュース番組は侮れない。


2003年5月31日

ブルースフェス遅報

< 丸山実氏も玉砕した模様 >

トーク・ディスカッションのテーマは
『ブルースは誰のもの?』
パンフレットの説明には、「今日のブルースは、外国人ミュージシャンにとってはファッションになってしまった」ので、「外来の彼らやアメリカ人ミュージシャン達が、 各々にとっての『ブルースとは何か』を討論する」とあった。

ところが、のっけから黒人対白人の視点で話が進められ、東洋人である丸山さんは、彼らの不毛な議論に楔を打つことができなかったらしい。聴衆として参加していた知り合いの白人によると、とにかく気分が悪くなるような討論が続いていたという。

お気の毒に . . . .

しかし誤解を恐れず、
「黒人でも奴隷でもなかったけれど、僕にはブルースを演奏する理由がある」
とい言い切った丸山さんはカッコいい。


2003年5月31日

ブルースフェス速報

寒さにやられ 玉砕
4打数1安打。その一本がフェンス直撃の2塁打( . . . . . と思いたい)

飛び石の日が埋まってしまい
現在8日間10本の3日目の前半終了