傀儡 (くぐつ) のよしなしごと 6 [ 2003年1-3月 ]


Harmonica Kahn & Hiroshiat Rosa's Lounge
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2003年1月26日(日曜日)

昨日ミシガン州の Traverse city でちょっとしたコンサートやった。500席以上の会場(Northwestern Michigan College のコンサートホール)やのに、$20のチケット(何故か)は売り切れてたらしい。でも吹雪きやったから、9割くらいの入りやったわ。

受けた 受けました
久しぶりにちゃんと聴いてくれて評価してもらった感じ。ピアノも最高級の一つ下(ステインウェイ&サンズのセミコン)のエエやつ。ベンツの新車を派手に乗り回した気分やったわ。

驚いたことにモーズとニックのリズムがしっかりしてたから、久しぶりにリズムを気にせず演奏できたことが大きい。

演奏後のレセプション会場では、クールに気分の良さを味わってた。

今日はシカゴへ夕方までに戻る予定になっていたのでホテルを10時出発。最初丸山さん運転でスタート。ところがビリーとニックが途中の道を間違えて教えた。なんか妙な気がして地図を見ると、明らかに反対方向へ向かってる。二人は自分らがゆ〜た責任もあってなかなか認めようとはせん。

昨日も行(いき)しな、道に迷(まよ)てUターンしようとし、大将は雪の中(膝の高さ)に車(大型のバン)を突っ込ませた。オレはそのときうたた寝していたので、車窓が一気に真っ白になって目が覚める。ビリーは沿道が急な傾斜になっていることを雪で気付かなかったらしい。幸いにも親切な兄ちゃんが、でかいピックアップトラックで引っぱり挙げてくれたけど、その時も地図見たら、なんで遠回りの道選ぶかなってくらい回り道やった。

往生際の悪い二人を無視して、誰かに道を訪ねるよう丸山さんに進言。結局1時間はロスして本道に戻った。

途中立ち往生している車発見。すかさずビリーが皆で助けようと天使の一言。前日受けた善行のお返しと黒黄の天使徒に化す。

結局車は当て逃げされたばかりの事故車で、向いには修理屋の看板。一時の清廉な心など束の間なれど、時折見せる人の良さがこのメンバーの諸刃の剣。

時間は経ってるのにまだ道程の5分の一。夜仕事のある丸山さんに替わって、シカゴまでの4時間程をオレが運転した。家に戻ったのは5時半。ケンタッキーへ買い出し。オレが急いでたのはNFLスーパーボールが始まるから。

やっぱりアメリカに住めば、贔屓チームが出ておらずともスーパーボールは観戦せねば。


2003年1月30日(木曜日)

ハーモニカ・カーンという怪人が2/8にロザでメインを張る。得意技:カスタネット(小板をヒモで綴じた本格的なもの)でリズムを刻み、床に寝転んで足(タップシューズ付き)を回転させながらハーモニカを吹く。知られた経歴は、26年間服役していたことのみ。

26年間も入ってたって・・・殺っとるのはひとり二人ちゃうな。

今ロザでは『お前 何で刑務所に入ってたんや?』と誰が聞くかが問題になってる。


2003年2月4日(火曜日)

今日キングストン・マインズに ブライアン・デネヒー(Brian Dennehy)が来た

人に紹介された時 ピアノを誉められたのが嬉しくて
この役者どの映画に出ていたかとネットで調べていたら
あるインタビューでマインズでの出来事に触れていた
http://home.earthlink.net/%7Emasarula/toppage.htm
(「映画スターの、意外な一面」参照)

彼は酒にまつわる逸話が多いが
酒を絶つに至った経緯が語られている

埋もれていた淡い記憶が鮮明に蘇る

その時 Valerie Wellington は "I rather go blind " を唄っていた
通路までぎっしり埋まった客がしーんと聴き入る中
客席の真ん中で大男が一人 ゆらゆらと立って歓声を上げている

後ろの客が座れと言うのを無視し続けた挙げ句
最後には振り返って 汚い言葉を吐いたようだ

大男の顔が正面を向き 
再び雄叫びを上げようと 手に持ったコップを掲げた瞬間
頭のてっぺんから血を噴き出し 
スローモーションのように前に倒れていったのを思い出す

バンドはすぐ音を止めたのに オレだけが演奏を続けていた

殺されたかも知れないという非日常を認めたくなかったし
何ごとも無かったかのように振る舞っていたかった

ビアジョッキで殴った小男はそこへダイビングし 
会場は悲鳴と怒号で溢れ返る
店のセキュリティが飛んで来て小男は取り押さえられ
ほどなく警官や救急隊も駆けつけ 事態はすぐに沈静化した

お前か あの時の酔っぱらいの客は!

今日ブライアンに讃えられた事が 急に褪せてしまった


2003年2月8日(土曜日)

デルマーク・レコード社長、ボブ・ケスターまでが観に来ていたように、ハーモニカ・カーンの前評判は上々で、この半年のロザ最高入場者数になった。

G:ジミー・バーンズ
P:オレ
B:江口弘史
Drms:ビッグアイ・ウイリー・スミス
Voゲスト:ラリー・テイラー

結論)

こいつにロザの週末のヘッドライナーはまだ早い
でもブルースな夜だった

ところで、カーンさんは何人殺していたんでしょうか?

答) ひとり

76年にラサールホテルのロビーで喧嘩による殺人を犯し
25〜75年の刑で服役 去年出所したばかり
以前も喧嘩や泥酔で何度も短期収容されていたため
刑期が膨らんだらしい

26年の服役は相当辛かったらしく
娑婆に出られて幸せで 2度と戻りたくないと言っていた
ステージでも『26年服役していた ホントの話の唄です』
と堂々のMC

服役中の86年 収監者音楽プログラムに参加し
その限定版LPに録音

唄は素朴な風情だけど 常にタップを伴い
時には椅子に座り 足踏みとカスタネットでリズムを刻むため
結構体力の必要な 見た目には派手なパフォーマンスに映る
圧巻は バンドの音を止め(ブレイク)
床に寝転んで足を振り上げ 振り回し
カスタネットとハープでのひとり舞台
 
曲は"Rock Me" "Eenie-Winie"(Just a little bit) "Help Me" "Crosscut Saw" "Wake Up This Mornin'" "Red Rooster" "Scratch My Back" "Mojo"等の有名曲ばかり

数曲のオリジナルも唄ったがオーソドックスなもので
というよりどれも同じ出だしなのに どこにいくか本人も分らない 
不思議な昔(原始的ブルース)の空間を作っていた

ジミーやラリーが唄い終えた曲を
『あの曲はオレも知っている』
と言って また演奏すること3回
1セット目で演った"Next Time You See Me"を3セット目でも唄う
 
ウイリーがリズムを走らせるのには参ったけど
ジミーがソウルバラード風に始めた
"Stand By Me"(このユニットで選ぶな!)を
"Wake Up This Mornin'"のテンポにまで速めたのには驚いた

再び驚いたのは 直ぐ後でカーンが懲りずに"Stand By Me"を始めたこと
江口が懸命にリズムを抑えてるのに
手綱を無視する暴れ馬のごとく
ウイリーは"Wake Up This Mornin'"にしてしまう

はいはい MCのトニーが「本物のレジェンド」と紹介する貴男様には
誰も文句は付けられません

アタマ はったろか!


2003年2月10日(月曜日)

ちょっと小ネタ

「人殺しで26年間服役し 去年出所した人とライブをした」

って話を地元の友達にメールしたら、そいつの同窓生に人殺しが二人おった。

負けず嫌いなやつ↓↓↓

『さすが銃社会のアメリカやなぁ!そんなにゴロゴロ人殺しがおるんや!しかしなぁこの間××(伏せ字ーアリヨ)の定時制高校の同窓会みたいなんが有ったんやけどな、まぁ現役ヤクザが多いのに驚いたけど当時俺の子分やったやつらやねんけど今はもう「立派な人間のクズ」に成長しとったワ!でその中に人を殺したヤツが二人もおった!一人は組同志の抗争でチャカ引きよったんやけど、懲役をつとめあげて出て来てるんやけど、コイツはまだマシで、もう一人は殺してから逃げきって、なんと時効が成立して今葬儀屋を経営して社長に成ってボロ儲けしとるんやで!

まぁエグイやつや!俺そいつと二人で×××(伏せ字ーアリヨ)署に殴り込みに行った事が有ってなあ!機動隊20人と大立ち回りして逮捕された事が有るねん!懐かしいわ!お前もそっちで人殺しとバンドやって現役にカムバックせえや!シブイのぉ!ブルースやのぉ!シカゴと××(伏せ字ーアリヨ)どっちがガラ悪いねや?』

と言われて意地になり

『ハハハ. . . . . こっちのウエストサイドは銃声聞いて警察連絡しても、来るまで2時間程みんとアカンわ/いくら××でも、昼間から6才の女の子犯してアパートの7階から投げ捨てへんやろ?お前の武勇伝もエエけど、こっちの警官は憶病者が多いから確実に撃つわ/オレは警官が一番恐い/こっちが撃たれてもあいつらは殆ど罰せられへんもん/拘置所がまたエライとこらしい/アジア系は集団でカマ掘られる/肌がきめ細かで具合エエんやと/

お前の同窓生のヤクザって家業継いだようなヤツやろ?少なくともお前と意志の疎通はできるんやろ?ここは銃社会っちゅうだけやの〜てヤク(薬)社会やから、目ぇ飛んどるヤツ多いぞ/ヤクザの知り合いはおらへんけど、今は企業犯罪の方ばっかしらしいわ/圧倒的量と質で、日本と比べ物にならんぐらい犯罪者は多いって/ヤクザちゃうねん!ただの犯罪者やねん/警察と撃ち合いしよんねん!(ウチから車で10分のとこで)皆殺しにされよんねん!日本のヤクザは警察と撃ち合わへんやん?

お前も連れのヤクザも死ぬのん嫌やろ?そやし逃げ回っとったやん?(別に死ぬ理由もないやろし)/昼間からダウンタウンの銀行強盗して、失敗した女が手榴弾で爆死してみ?頼むからこっち来て、暴れ回って一日生きてみてくれ/お前やったら弾丸を避け切れるかも知れんし/でも警官殺したら、こっちは死刑が待ってるからヨー考えてみてくれ/』

と投げ返したら 

『負けた!そんなん××(伏せ字ーアリヨ)以下やんけ!参りました!そっちのヤンキーはタチ悪いのぉ!とにかくそんな治安の悪い所には行きたく有りません!銃はアカン!どないもならん!一回××組(伏せ字ーアリヨ)の組長にハジキ引かれた時ションベンチビリそうやった!そんなんそっちでは24時間やっとるんやもんなぁ!つくづく日本で良かった!さぁ茶漬けでも食うか!』

勝った!

アリヨ
↑↑↑負けず嫌い


2003年2月21日(金曜日)

キングストン・マインズ金曜
Eddie.C.Campbell と20年振りに会う

こいつ オレの初めてのミュージシャン友達やったのに
やつのヨーロッパツアーの契約書を担保に(見せられただけやけど)
$1.200(当時のレートで35万円!)貸したら 
そのまま10年もシカゴに帰って来なかった

薬でパーになっていて あの頃の事は覚えていないとぬかす
証文はとっくに無くしているし 既に時効

関係者(みんなが彼に金を貸していた)が
文句を言わぬ頃と見定めて戻った様子

金の件はどうでもよいが 
貸したことだけはいつか認めさせてやる


2003年3月4日(火曜日)

今日はこの冬一番の大雪
仕事中に十数cmも積もって
行きの40分が帰りは一時間半もかかった
今週は降り続くらしい

今月は久しぶりに暇(といっても18本)なのと
明日のリハが休みなので嬉しい

しかし某閣僚が「反戦は利敵行為」って公言したのは笑うよな
前は「米国の対イラク政策は世界が共鳴してる」ってゆ〜たのに
世界中で1.000万人を超える反戦デモがあったから
大慌てで次の文句を考え出したんやろな

こいつブッシュが「お前の支持者殺せ」ゆ〜たら殺すな
あ〜小一時間程この某を問いつめたい!

オカン(公務員)の引退記念に子供達から旅行券でも贈ろうって
兄弟妹でメールを回覧し 改めて思った

各々が住んでる所 離れ過ぎ!
シカゴ、シアトル、バンコク、埼玉

最後の埼玉って・・・


2003年3月10日(月曜日)

-15℃のシカゴ
駐車場が所々
荒れたスケートリンクになっていて楽しい

大きく息を吸い込むと
鼻の中が凍ってチリチリとする

吐く息がタバコの煙のように 
長く宙を漂う

えっ??
もう3月・・・

天気の神様
考えんといかんぞ!


2003年3月28日(金曜日)

明日は早めの夜に "Isaac Hayes" で Zora Young のバックを SOB でして、夜中にはPinetopのフォローにロザへ直行です。

暇なはずの今月、完全休日は4日しかありませんでした。日曜がその貴重な休日の最後の日なので楽しみです。


2003年3月29日(土曜日)

ワーイ ワーイ 
雪だ雪だ 楽しいなっ
・・・・・・・・・・

こらぁっ! もう4月やんけ!

今夜は "Isaac Hayes" で SOB が Zora Young のバックを務めるため、少し早起きして(といっても2:00PM)彼女の曲を採譜。簡単なコード譜とリズム譜なのに、誰も読んでくれない悲しい作業。でも、曲をうろ覚えだったり、音が取れないメンバーが必ずいるので(貴様じゃ!)説明するとき役に立つ。ブルースの曲も最近はキメが多いから、よっぽど聴き込んで覚えないと、本番ではせっかくのアレンジが台なしになる。

"Isaac〜" はダウンタウンにある、レストラン・シアター風の数年前にオープンしたクラブで、かの Isaac Hayes がオーナー。全体に黒で統一された店内は、レストランとバーが簡単な仕切りで分けられていて、吹き抜けから見おろせる2階席も含め、どこからもステージが望める。

週末にはトイレに黒人のおじさんが配置され、ペーパータオルを手渡してくれたりする。そのチップ皿の横には各種コロンなどを揃えており、手を拭きながらおじさんと歓談するのも楽しい。

広いステージには器材が揃えられていて、自前の物をヒーコラと搬入する煩わしさがない。出演者には$15相当のオーダーが認められているため、ショウの合間に、メンバーが揃ってテイクアウト用の食べ物を注文したりするお気に入りの店のひとつ。 

そこではオシャレな若い黒人達のパーティを良く見かけるが、彼ら自身が風景化されていると感じるのは、自分が異邦人だからだとはあながち言い切れない。黒人音楽に傾倒する者の憧憬の先には常に若い彼らがいる。

入り口に突き出た屋根の外壁に "TONITE SHOW ー BILLY BRANCH & THE SONS OF BLUES" のサインを思い浮かべながら、ダブルの黒スーツに黒シャツ、黒ネクタイで身だしなみを整え、次第に出勤モードとなっていった。

ドラムのモーズを迎えに行く車中でビリーより電話。

「マドリン(マネージャー)から連絡があって、今日はキャンセルになった」
「へっ?」
「"Isaac Hayes" が店を閉めたらしい」
「・・・」
「モーズには連絡したから、迎えに行かなくてイイよ」
「あの・・・来月のスケジュールにも"Isaac" 入ってません?」
「・・・」

「雪ですね」
「ああ・・・」

ビリーとの会話の間に、車はモーズのアパートに着いていた。